志望動機で決めました
前回の続きです。いよいよ、採用活動が始まりました。
読んで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
会議室
倫心は、田中が提案した
『人事業務の仕事切り出しプラン』について、
社長と部長、そして田中の四人で打ち合わせをしていた。
この場にいる誰よりも若く、勤続年数も浅い倫心は、
重い空気に息が詰まりそうになっている。
「一人目の方に、人事の仕事をお願いするプランですね……」
社長の舟木は、タブレットで資料を確認しながら静かに口を開いた。
人事課の面々は、固唾をのんでその言葉を待つ。
「いいですね。これなら直接、香山さんと田中さんが支援できる。」
舟木社長の言葉を聞き、倫心の緊張感は少しだけ軽くなった。
「仕事内容も、工場勤務のパート社員の勤怠申請や定期健診の管理補助、
労務管理の補助、備品発注など、大きな負担にはならなそうですね。
早速、一人目の募集を開始しましょう」
「ありがとうございます。求人票の作成を進めます」
田中が満足げに答える。社長の許可が下り、倫心はそっと胸をなでおろした。
人事課に戻り、倫心は早速、求人票の入力に取り掛かった。
新入社員やパート社員以外の求人票を作成するのは、
これが初めてのことだった。
どんな方が応募してくれるだろう。
もし、誰一人応募がなかったらどうしよう。
期待と不安が、倫心の胸の内で渦を巻いた。
2週間後、3名の応募があった。
倫心と田中は、送付されてきた履歴書を隅々まで読み込み、
面接の候補者を選び始めた。
「北岡さんに面接に来ていただくのはどうでしょうか?」
倫心は、北岡の履歴書を田中に手渡す。
田中はそれを受け取ると、経歴に目を通した。
「へえ、元人事課の社員、しかも大手じゃん。三十二歳か、俺の一つ下だ」
履歴書に記載された「統合失調症 精神障がい者福祉手帳 三級」という文字に、
田中の視線が止まる。
「一番軽い等級かあ。いいじゃん、これで三十時間働いてくれたら、
1カウントゲットじゃん」
「カウント……人を物みたいに……」
倫心は思わず口から出た言葉を、慌てて飲み込んだ。
「ボランティアじゃないだろ。『法定雇用率』達成のための仕事だろ」
田中の言葉に、倫心は「そうですね」と答えるしかなかった。
分かっている。これは仕事だ。道徳心だけで動いているわけではない。
しかし、倫心は「みんな仲良く」という言葉にしがみつきたかった。
これだけが、唯一、自分の個性だと思えるからだ。
特別な才能など何もない。
大好きなバドミントンも、オリンピックを目指せるような選手にはなれなかった。
学力だって、人並みだ。周りが羨むような企業の社員でもない。
それでも、子供の頃からずっと「みんな仲良く」という信念だけは、
ブレずに守り通してきた、自分を支える『自分軸』だ。
「志望動機に熱意が感じられますね」
倫心は、感傷的な思考に流されないよう、
あえて意識して、はっきりとした声を出した。
「え、志望動機……」
田中は北岡の履歴書の志望動機欄を読み上げた。
「もう一度、経験を活かし、働いて、自立した生活を
送りたいと思い志望致しました。
病気を発症した事実を受け入れて、乗り越えた私は、
相手の気持ちが分かる人事社員になれると自負しております。
前職では人事業務全般を担当致しました。スキルを活かし、
組織の発展に寄与したいと考え、応募いたしました」
読み終えた田中が、率直な感想を漏らす。
「……やっぱ、深いな」
「早くお会いしたいですね」
倫心は、心の底から湧き出る期待を込めて、笑顔で答えた。
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