初陣!暁の牙、怪鳥を討つ!
王城の密室。
倫太郎、渚、ミラの三人は机を囲んでいた。
「……俺たちは動ける時間が限られてる。王子の公務や監視の目があるし、そう遠くまでは出られない」
倫太郎は腕を組んで唸った。
「でもユリウスたちだけに背負わせるのは酷だ。戦力が足りなすぎる……」
渚は静かに頷いた。
テーブルの上に置かれたのは、鈍い光を帯びる召喚石。
それはつい先日――。
倫太郎が「余は退屈だ! 召喚石を再び探し出せ!」とギルバートに命じた結果、禁書庫の奥深くから掘り出されたものだった。
「この召喚石でこの糸を……私の世界と結ぶことができれば」
倫太郎の目が開かれる。
「つまり、渚の世界から仲間を呼べるかもしれないってこと?」
「ええ。かつて共に戦った“彼”ならば、きっと……」
光が満ちる。
次の瞬間、机の上にゴーグルを額に上げた青年が姿を現した。
「……は!? な、なにここ!? って、渚!? お前まで……!」
橘 理人。
発明好きのムードメーカー、霊糸を持たぬ代わりに数々のガジェットを操る“参謀役”だ。
「理人さん……!」
渚が目を見開き、かすかに微笑む。
理人は状況を一瞥し、渚の隣にいる見知らぬ少年に視線を移した。
「で……そっちの金髪イケメンは誰? ってか、ここどこだよ!」
倫太郎は観念したように深呼吸し、頭を下げた。
「俺は……高原倫太郎。見ての通り、今は“王子アレクシス”の体を借りてる。事情は……複雑なんだ」
王子の悪名、異世界転生、そして渚を呼んだ経緯。
倫太郎は包み隠さず語った。
理人は腕を組み、やがて苦笑した。
「……マジかよ。王子の中身が高校生? 信じらんねーけど……渚が一緒なら嘘じゃなさそうだな」
「……ありがとう、信じてくれて」
倫太郎は安堵の息を吐き、すぐに真剣な眼差しに変わった。
「それで――頼みたいことがあるんだ」
「頼み?」
理人が片眉を上げる。
「ユリウスたち……あの三人組だ。戦う意志も勇気もあるけど、経験も支援も足りない。
俺たちは王城からそう遠くへは動けない。だから、理人……君に彼らの支援を任せたいんだ」
理人は少し目を細めた。
「へぇ……なるほどな。王子の直轄チームじゃなくて、庶民上がりの新人パーティをバックアップするってわけか」
渚が静かに補足する。
「彼らの心は純粋です。ですが、その糸はまだ細く脆い。導き、支える存在が必要でしょう」
ミラもこくりと頷いた。
「……わたしもそう思います。あの三人に、未来がありますから」
理人は肩をすくめ、そしてにやりと笑った。
「はは、仕方ねぇな。俺の専門は“後方支援”。
頭脳とガジェットで守ってやるのは、むしろ得意分野だ」
「理人……!」
倫太郎の表情に安堵が広がる。
「よし決まりだ。ユリウスたちのチーム、俺が支える。
王子サマ――じゃなくて倫太郎、お前はそこで見守ってろ」
数日後。
王都郊外の冒険者ギルド仮設支部。
ユリウス、セリナ、ガルドの三人が登録を済ませた直後――。
そこに加わったのは、奇妙なゴーグルと自作ドローンを背負った新顔の青年だった。
「えっと……俺は橘 理人。発明とか解析とかは得意だけど、剣も魔法もさっぱり。まあ、頭脳労働担当ってことで」
ユリウスは唖然とした後、にやりと笑った。
「いいじゃないか! 俺たちに足りなかったのは、そういう奴なんだ!」
こうして――四人の新しい小さなパーティが誕生した。
ユリウスが掲げた名は、少し気恥ずかしく、けれど誇らしげに響いた。
「俺たちは今日から――《暁の牙》だ!」
王都広場に新設された冒険者ギルド。
まだ机や椅子も仮設のような粗末さだったが、掲げられた依頼板には早くも一枚の紙が貼られていた。
【依頼】
『郊外の農村近くで怪鳥が目撃された。
家畜の被害が続出し、このままでは人々の生活に支障をきたす。
急ぎ調査と討伐を求む。』
「おお……これが、俺たちの初依頼か!」
ユリウスが目を輝かせる。
セリナは不安げに依頼書を握りしめた。
「……でも、怪鳥って……。私たち、まだ経験が浅いし……」
「だからこそ、だろ?」
理人が肩をすくめ、ゴーグルを下ろす。
「データも足りない。俺のガジェットで弱点を探す。ユリウスは突っ込む、ガルドは守る、セリナは支援。俺が指揮する」
ガルドは黙って頷き、盾の革ベルトを締め直した。
郊外の空。
影が差すと同時に、甲高い鳴き声が響き渡る。
翼を広げれば人間二人分はある怪鳥が、旋回しながら村の鶏小屋を襲っていた。
「来たぞ!」
ユリウスが剣を抜き、地面を蹴る。
セリナが震える声で詠唱を紡ぐ。
「――《炎よ、矢となりて!》」
放たれた火矢が翼をかすめ、怪鳥がバランスを崩した。
「ガルド!」
「おうっ!」
盾が唸り、落下してきた怪鳥の鉤爪を受け止める。
その隙にユリウスが剣を振り抜き、翼に浅い傷を刻む。
だが怪鳥はまだ健在だ。鋭い嘴が振り下ろされ、セリナに迫る。
「デコイ・ドローン展開!」
理人の叫びと同時に、金属音を立てて飛び出した小型ドローンが怪鳥の注意を引き、爆ぜた。
煙と閃光に怯み、嘴が逸れる。
「今だ、ユリウス!」
「うおおおっ!」
渾身の斬撃が、怪鳥の首筋を断ち切った。
血しぶきが飛び、巨体が地面に崩れ落ちる。
しばしの沈黙。
やがて村人たちの歓声が上がった。
「やった……! 本当に、倒せた……!」
セリナは震える手を胸に当て、涙ぐむ。
理人はゴーグルを外し、にやりと笑った。
「ほらな。データと頭脳があれば、怪鳥くらいどうってことない」
ユリウスが大声で笑う。
「はははっ! 俺たち、やっと“冒険者”になれたんだ!」
その言葉に、全員の胸が高鳴った。
こうして――新生パーティ《暁の牙》の初依頼は成功。
彼らは名もなき存在から、一歩ずつ“冒険者”として歩み始めたのだった。




