夏川 書き起こした情報を読んで
ノートと、資料の束が机の上に広がっていた。
夏川は湯呑を手にしながら、淡々とページをめくっていく。村野から聞き出した情報をもとに、自分なりの整理を進めていた。
あまり重要と思える情報はなく、詳しい内容を一つ一つ検証するつもりはない。ただ、気になる点が一つだけあった。
それは、一件だけ存在していたという目撃証言だった。
事件の夜、影のようなものを見た、というその証言。
だが、証言者はが「幽霊だった」とふざけた調子で語ったため、警察はまともに取り合わなかったらしい。
夏川は無表情のまま、指先でページの端をトントンと叩く。
ふざけた話だから、と捨てられた証言。
だが、もしそれがもっと真剣に扱われていたなら、何かが変わっていたのではないか。
あまりにもあっさりと捨てすぎている。
犯人にとって都合が良い。
ふざけて語られた話でも、時に真実を含んでいることがある。
だが、当時の警察にそんな柔軟な発想を期待する方が間違いだったのかもしれない。彼らは幽霊だの都市伝説だの、そういう単語が混ざった時点で思考を止める。ふざけた話は切り捨て、くだらないと決めつけ、ほんのわずかな可能性すら潰してしまった。
その結果が、未解決か。
夏川は資料の束を見つめながら、静かに考えを巡らせた。
ふと、桜見湖の都市伝説は今でも語られているのだろうかと気になった。
流石にもう風化しているだろうか。
夏川はノートパソコンを開く。
SNSを開いて検索をかけると、思った以上に桜見湖の話題が流れていた。
再開発のニュースをきっかけに都市伝説ついて触れる人たちがいて、ちょっとした盛り上がりを見せているらしい。
夏川は適当にその投稿を読み漁り始めた。