雑誌の切抜き、読み終え
夏川は古びたスクラップ帳をベッドに投げ出した。
部屋に戻りながら目を通したが、中身はくだらないものばかりだった。
湖に立つ影というものが、女子大生に死をもたらしたらしい。
結局、全部、取るに足らない情報ばかり。
妄想だけの、雑音以下の記事。
だからこそ、自分は途中でこの手の情報を追うのをやめたのだった、と思い出す。
とはいえ、ちょっとした小休止にはちょうど良かった。
昔はこういうものが流行っていた。自身も友人たちとこういった類の話で盛り上がった経験がある。
いまもそうなのだろうか。
きっとそうだろう。
時代は変わった。
だが、根本は何も変わっていない。
当時、誰もが無責任に面白がっていた噂話は、今はインターネットという世界を泳ぎ、より雑多に、より手軽に消費されているだろう。
どれも真実のように語られるが、けれど誰も本気では信じていない。
ただ、怖がり、楽しみ、消費する。
その裏で埋もれていくものがあったとしても、誰も気づきはしない。
そにしても、当時も少し疑問に思ったが気がするが、桜見湖の都市伝説はいつの間に内容があんなに変わってしまったのだろう。自分が小学生くらいの頃にも桜見湖の都市伝説は流行っていたが、内容はもっとシンプルで、桜見湖にはそこで自殺した女の子の幽霊が出る、というものだったと夏川は記憶していた。これは間違いない。
まぁ、どうでもいいことか。
夏川は椅子に座り、机の上に置かれたボイスレコーダーを見る。
昨夜の、村野との会話がそのまま残っている。
なぜ犯人が捕まらなかったのかを考えるのなら、こちらの方がよほど有用だろう。
夏川はレコーダーの再生ボタンを押す。
くぐもった音声が、部屋の中に流れる。
酒の入った村野の、少しだるそうな声。
曖昧な笑い声、そして語られるかつての未解決事件。
夏川はノートを開き、ペンを手に取った。
音声に耳を傾けながら、必要な情報だけを、冷静に書き留めていった。