面会翌日
翌朝、夏川はコーヒーを飲みながら、昨夜のことを思い返していた。
村野が口にしていた、現場がマニアたちに荒らされた、という話。確かに、新聞の切り抜きには立ち入りに関して注意喚起を促す内容が多かったの確かだ。警察の規制線を無視して、噂に便乗した連中が好き勝手に現場に押し寄せた。結果、事件現場はめちゃくちゃになり、ろくな証拠も残らなかった、というようなことは前にも考えた。
しかし夏川として、そんなことよりも村野が言っていた捜査の範囲が桜見湖に集中し過ぎた、ということが大きな問題に思えた。しかし警察はプロである。その程度のこと十分に承知しているはずだ。そのプロがそうならざる得なかったほどの状況だった、ということか。
あの頃、マスコミ、特にゴシップ誌はどんな記事を書いていたのだろう。曰くある場所で殺人事件が起きたことに関して、きっとその手の雑誌は面白おかしく騒ぎ立てたはずだ。
「湖に立つ影の呪い」「女子大生の死と因縁の地」「消えた凶器と怪奇現象」。
思い返せば、当時はそんな見出しが、書店の雑誌コーナーにも、そこら中に並んでいた気がする。中身は取るに足らない憶測と作り話の寄せ集めだろうが、そうした記事が混乱を煽ったことは否定できないだろう。
そのせいで、本来追うべきものから目が逸れてしまった。
そういえば、当時のゴシップ記事をいくつかスクラップしていた気がする。くだらない記事と思いつつ、なにか新しい発見があるかもしれないと思い少しだけ集めたのだ。
夏川は立ち上がり、物置の鍵を手に取った。埃をかぶった段ボール箱の中に、その残骸が残っているかもしれない。
夏川は窓の外に視線を向け、曇りがちな空を一瞥し物置へ向かった。