夏川の疑問。
新聞の切り抜きを一通り読み終え、夏川は机の上にそれらを無造作に置いた。
ページの端は黄ばみ、紙は湿気で波打っている。だが、そこに並ぶ活字は、40年以上前の事件の混迷を、今でもはっきりと伝えていた。
捜査は難航。
目撃者なし。
凶器見つからず。
町に漂う不安。
時間帯を考えれば、目撃者が少なかった、あるいはいなかったのは理解できる。
霧が濃く、夜も遅かった。人気の少ない湖畔では、偶然誰かが居合わせる確率のほうが低いだろう。
夏川は腕を組み、ゆっくりと首を傾げた。
だが、凶器だけはどうにも腑に落ちなかった。
湖畔周辺やその付近は、徹底的に警察の捜索が行われたはずだ。
それでも凶器が見つからないとは、どういうことだろう。
夏川は指先で、黄ばんだ新聞の切り抜きを軽く叩いた。
記事の端には、繰り返し「現場周辺への立ち入り自粛を呼びかけ」とある。
しつこいほど、何度もその文言が出てくる。
そこまで何度も呼びかけが出るということはつまり、実際には忍び込んだ者が多かった、ということだろう。
野次馬、肝試し、興味本位の若者たち。
警察の規制も形だけで、現場は騒ぎと混乱の渦中にあったのかもしれない。
ならば、捜査が進まなかったのも当然といえる。
現場が荒らされ、証拠も踏み荒らされ、その結果として凶器が見落とされたままだった。そういうことなのだろうか。
いや、そう単純な話なのか。
そんなことあるだろうか。
「不思議だな」
夏川はポツリと呟き、椅子の背にもたれかかった。