ある都市伝説の伝播
陽斗の祖父が亡くなったという話は、思いのほか早く学校中に広まった。
最初に聞いたのは誰だったのかは誰にも分からない。
ただ、いつの間にか誰もが知っている前提のように、その話題はクラスにも廊下にも、昼休みの校庭にも溶け込んでいた。
「陽斗のじいちゃん、亡くなったんだってさ」
「え、マジ?」
「なんか急に倒れたらしいよ」
そんな断片的な会話が、教室のあちこちから漏れ聞こえる。
話す者と、聞く者。
驚く者と、面白がる者。
それぞれの表情は様々だったが、言葉だけは次々と伝染していく。
そのうち、誰ともなく、別の話題と結びつける者が現れた。
「そういえば、陽斗って昨日、湖の影の話してたじゃん」
「じいちゃんから聞いたって言ってたやつ」
「じゃあさ、そのじいちゃん、影見たんじゃねーの?」
「えー、そんなこと言ってたか?」
「言ってた言ってた、絶対見たんだよ」
「ほんとか?」
「ほんと、ほんとだって」
ふざけ半分、でも少しだけ本気。
そんな温度のまま、話は膨らんでいく。
そして気づけば、それが真実かのような顔をして、どこまでも駆け巡っていく。
人が死んだのは、影のせい。
桜見湖には自殺した少女の霊が出る。
桜見湖には、自殺し少女の影が立つ。
そしてその影を見た者は呪われる。
いつの間にか、一つの物語に組み上がっていく。
しかしそれが事実なのかなんて、誰も確かめようとはしない。
確かめる必要などなかった。
面白ければいい。
不気味であればいい。
それが、噂というものだった。
なにもかも全部がごちゃ混ぜになり、新しい都市伝説は生まれる。




