表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

夏川 捜査終了

 どうやら、桜見湖の都市伝説は今でも健在らしい。だが、内容は多少変わってしまっている。

 自分が小学生だった頃は、桜見湖には自殺した少女の幽霊が出る、という程度の話だった。よくある幽霊話の一つだ。しかしゴシップ記事を思い出すと、その頃には話は変わっていた。

自殺した少女が“影”となり、湖面に立つ。それを見た者は、死ぬ。

 さらにSNSでは、今ではあの事件で殺された女子大生が、その“影”の正体だということになっているらしい。自殺した少女の霊から始まった話が、女の子の影へとなり、気づけば“見たら死ぬ存在”へと膨れ上がっていた。

 どうしてこうも、話は変わっていくのだろうか。

 これが、都市伝説というものが持つ性質なのかもしれない。曖昧な噂が混ざり合い、時とともに姿を変え、より刺激的に、より劇的に語り継がれていく。

 しかし、可哀そうなのは、あの事件で殺された女子大生だろう。

 純然たる被害者であるはずの彼女が、今や「影となり、見た者を殺す存在」として語られている。本来、憐れまれるべき存在が、いつの間にか恐れの対象へと変わってしまった。

 さらに痛ましいのは、誰もが彼女の死には触れるくせに、この事件がいまだ未解決であることには、ほとんど誰も触れようとしない点だ。

 もう四十年以上も前の事件だ。真面目に考えたところで分かるわけがない、そう思っているのかもしれない。

 否定は、できない。

 決めてになるような情報は残っていない。

 あるいはみんな、都市伝説という玩具で遊ぶことが出来れば満足ということか。

 人間は昔から、起きてほしくない現実や、理解できない出来事を、都合のいい物語の中に押し込めて処理してきた。

 幽霊、祟り、都市伝説、怪異。

 遥か昔は畏怖からくるものだっただろう。

 しかしいまはどうだ。

 そういった恐怖は、いまやただの玩具と化している。

 桜見湖の女子大生殺人事件は、まさにその典型だったのかもしれない。

 犯人が誰かなんて、事件が解決するかしかないなんて、どうでもいい。

 しかし、ある意味では自分もそれも同じである。

 これ以上調べようもない。

 調べる気もあまりなくなっていた。

 夏川は画面を見つめながら、ふっと口角を上げた。

 それから考察用に使っていたノートにこう記し、探偵ごっこを終わりにした。


 真実よりも、影の方がよく残る。

 そうしてまた、誰かが面白がる。

 影は立ち続ける。

 誰かが望む限り、その形を変えながら。

 A.N

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ