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君に会えた、最後の季節

作者: kai

あの日、懐かしい公園で再会した絢奈。

10年前、突然消えるようにこの街からいなくなった彼女が、今、目の前にいる。


「久しぶり。優くん……」

その声は震えて、懐かしさと切なさが入り交じっていた。


俺は喜びと怒りが胸の中で交錯して、言葉に詰まった。

けれど、絢奈は静かに微笑みながら言った。

「少し話せるかな。聞きたいこと、たくさんあると思うから。」


二人で歩いた公園への道。

並んでいるのに、どこかぎこちなかった。

ベンチに座ると、絢奈は小さな声で話し始めた。


「ごめんなさい、優くん。10年前、何も言わずにいなくなって……」

彼女はうつむいたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。


──海外でしかできない手術。

成功率の低い大手術。

心配をかけないため、何も告げずに旅立ったこと。


全部、初めて知った。


それでも、俺は素直になれなかった。


「ずっと悲しかった。ずっと待ってたんだぞ……」


絢奈は何度も「ごめんね」と繰り返し、俺は俯いた。


「でも……会えて嬉しい。」


顔を上げると、彼女は涙ぐみながらも、子供の頃と同じように笑った。

あたたかくて、眩しい笑顔だった。


話しているうちに、空は赤く染まり、やがて暗くなった。


「どうして、またこの街に?」


俺が聞くと、絢奈は表情を曇らせた。


「実は……病気、完治してなくてね。あと半年くらいしか……生きられないって。」


俺の胸に、鈍い痛みが広がった。


「なんで……」


絢奈はかすかに笑った。


「でも、最後に……優くんに会いたかった。昔みたいに、もう一度だけ。」


どうしようもない悲しみが押し寄せた。

でも俺は、決めた。


「なら、毎日会いに来るよ。半年間、君と一緒に過ごす。」


彼女は震える声で、何度も何度も「ありがとう」と言った。


それからの日々は、かけがえのない時間だった。

一緒に笑い、泣き、語り合った。


──けれど、半年後。

絢奈は静かに、眠るように旅立った。


最後まで、彼女は笑顔だった。


俺は何もできず、ただ声を殺して泣いた。


病室を片付けていると、二つの封筒が見つかった。

ひとつは──俺宛だった。

中にはこう書かれていた。


「 優希くんへ


やっと、この手紙を書ける気がしたよ。


本当は、もっとたくさん一緒にいたかった。

もっといろんな場所に行きたかったし、笑い合いたかったし、普通にケンカして、仲直りして、そんな当たり前の毎日を積み重ねたかった。


でも、私はそれを選べなかった。

最後まで、ちゃんと隣にいられなくてごめんね。


10年前、あの公園で突然いなくなったこと、ずっと後悔してたよ。

本当は泣きながら、優希くんに会いに行きたかった。

でも、怖かったんだ。

約束もできないまま、さよならになるのが。


あのとき勇気を出せなかった私は、本当に弱虫だった。

なのに、また優希くんに会えて、優しく迎えてくれて、私はどれだけ救われたか分からない。


毎日一緒に過ごした日々は、私の宝物です。

ベッドの上でも、ぎりぎりまで笑わせてくれたこと、全部覚えてるよ。

「また明日な」って言ってくれた言葉、聞くたびに本当は泣きそうだった。


生きたかったな。

もっと、一緒に未来を歩きたかったな。

夢だったんだよ。

優希くんの隣で、大人になって、

どんな小さな幸せも、全部ふたりで拾っていくことが。


たくさん未練があるよ。

でも、後悔だけじゃないんだ。


こんな私の最後を、優希くんに見送ってもらえたこと、

心から、感謝しています。


ありがとう。

ありがとう、優希くん。


大好きです。

ずっと、ずっと。


絢奈より」

_________________________


手紙は涙で滲み、文字が見えなくなった。

俺は病室で、声を殺して泣いた。


外に出ると、曇っていた空が少しだけ晴れていた。

ふと、風に紛れて小さな声が聞こえた。


「――頑張って、前に進んでね。」


絢奈の声だった。


俺は空を見上げ、涙を拭った。


「生きるよ。君の分まで。……俺も、絢奈が好きだった。」


そう告げて、前に進んだ。


あの日と同じ公園を、まっすぐに歩きながら。



それから十年の歳月が流れた。俺は結婚し、子どもも授かった。日々の忙しさに追われながらも、毎月、絢奈の月命日には欠かさず彼女に会いに行っている。


今日も、いつものように花を手に墓前に立った。墓石の前で彼女に語りかける。「絢奈、今日は子どもが初めて自転車に乗れたんだ。君がいたら、きっと一緒に喜んでくれただろうな」


話し終え、「また来るよ」と声をかけて背を向けたその時、背後から微かに風が吹いた。その風に乗って、懐かしい声が耳に届いた気がした。


「結婚おめでとう。幸せにね」


驚いて振り返ると、そこには笑顔の絢奈が立っていた。もちろん、幻覚だとわかっている。それでも、その姿に涙が頬を伝った。大きな風が吹き、目を閉じると、彼女の姿はもうなかった。



初めて小説書いてみました。

短編小説にはなりますが、読んでいただけると嬉しいです。また感想とかあると今後の糧にしていきたいのでよろしくお願いします。

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