file17:守りたいもの
妹の由香を滞在型の介護施設へ入れるべきか相談された華子は自分の本心を隠して答えた。
影響を与えないで欲しいという私の願いは届かなかった。シフトの入っていない週末、あいつが由香ちゃんを連れて施設の見学に行ったのだ。
私には無い誰とでも仲良くなれる才能があるらしく、由香ちゃんはすぐに利用者の人達と打ち解けて楽しく過ごしていたそうだ。とても気に入ったようで、アパートに戻っても興奮して『また行く』と言う言葉を何度も繰り返していたらしい。
そんな話を電話越しに聞いていると、苦笑いするあいつの寂しげな表情が容易に想像できた。
施設での暮らしに可能性が見え始めたものの、あいつは生活を何も変えようとしなかった。朝、職場の隣に由香ちゃんを預け、夕方になり仕事が終わると彼女を迎えに行き、手をつないでアパートに帰る。取り立てて特別でない単調な毎日の繰り返し。今から思えば、それを守ろうとあいつは必死に抗っていたのかもしれない。
まだ若かった私にとって、他人の幸せなど客観的にしか見れないし、ましてや理屈や合理性で推し測ることしかできなかった。
しかし、このときの私は、単にあいつが由香ちゃんにとってより良い環境を天秤にかけて、決めあぐねているように感じていた。
土日の投稿と書いておきながらすみません。
4月中に終わると思っていたら、このままでは難しいので、これからはできるだけ頻繁に投稿しようと思います。
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