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クレヨン  作者: 蒼井果実
12/22

file12:気がかりなこと

ファミレスで兄妹と同じ時間を過ごした華子。由香とのやりとりを行うにつれ、彼女への警戒心は薄れていった。

 食事をした夜から、私と由香ちゃんの関係は徐々に変わっていった。

 平日はボランティアの後に待ちわびる由香ちゃんのもとへと向かった。彼女は良くも悪くも感情を全身で表現するので、いつの間にかぴょんぴょんと跳びつかれることにも、手をギュッと握られることにも慣れてしまっていた。

 年末年始や休みの日も私は由香ちゃんと遊ぶ約束を交わした。日曜日は動物園、そして次の土曜日には買い物に出かけた。

 これまで必要な日用品は平日の帰り道か由香ちゃんが寝た後で揃えていたらしい。不測の事態などを考えて、どうやら二人だけでの長時間の外出には慎重だったようだ。

 だから、妹の洋服選びに付き添えるのは久しぶりだったらしい。とはいっても、とうの由香ちゃん自身はファッションについてあまり関心がないようで、探すのはもっぱら兄の役目だった。

 行動的で活発な由香ちゃんの日常生活に適う耐久性と見た目が伴わなければならない。由香ちゃんがジーンズを履くことが多いのはその為だった。

 由香ちゃんが身に着けている洋服のほとんどは、買い物に付き合ってくれた例の同僚が選んでくれたものか、彼女からのもらい物らしい。

 とても楽しい日々を送れていると感じていたし、実際に充実していた。ただ、それでも気がかりな点はあった。

 その一つが私の知らない空白の四年と七ヶ月だった。

 だから私は尋ねてみた。

「同僚の人って、よっぽど由香ちゃんがお気に入りだったのね」

 こうして元同僚の話を詳しく聞きたいと思うのだけれど、あいつは気乗りしない様子ですぐに他の話題へと変えてしまう。そうなると余計に知りたくなってしまうのだ。

 気になっていることがあるといえばもう一つ。買い物の前日に由香ちゃんの足りない服を確認するためタンスの引き出しを開けたときのことである。

 確かに食べても安全なクレヨンを教えたのは私だけれど、それが三箱も四箱も積まれてあるのには驚かされた。

 一番上のものはふたが開けられていて、流され削られた小石のようにもはや原形をとどめていない。使い込まれくすんだそれが丸くなって何色も転がっていた。

 油彩のように、同じところにベッタリと盛って塗られた絵が重ねられてあった。

 納得がいったのかはわからない。描き終わったものや途中のもの。試行錯誤の最中のようで、どれも表現方法を変えて工夫した部分が見てとれた。

 気晴らしのつもりと考えていたのだけど、もはや幼児の遊び道具としての役割では許されなくなっているのかもしれない。けれど、本物とは違いすぎる。決して満足を得られるものではない。あいつがクレヨンでの表現に限界を覚えていることは察するに余りあった。


本日、2回目の投稿です。間に合わず、土曜日の投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

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