【SIDE スー】普通の女の子でいたいから
ガヤイの街に辿り着き、ドロルと畜産店に入った。
しかし、彼はなぜか目的の飼料を買うことができなかった。店主はずいぶん変な人だったから、それが原因なのだろう。
でも店を出ると、ドロルはずいぶん悲しそうな表情だったので、せめて自分だけは味方になってあげなきゃなとスーは思った。
次に向かった先はギルドだった。
「いらっしゃましましー」
陽気なのか陰気なのかわからない受付の女性に少女に対して、ドロルは言った。
「この子、スーって言うんだけど、迷子なんだ。この子の保護者を見つけたいんだけど、依頼を出すことは可能かな?」
「なるほどそれでカウンティに来たってわけですねーわかりますわかります。人探しですね了解です」
「できれば保護者が見つかるまでの間、ここで匿ってもらいたい。……それだと結構かかるかな」
スーはドロルの言葉に耳を疑った。
「え、ちょっと待ってよドロル。それどういうこと」
「それではではではこのくらいの依頼料になりますねー」
「そ、そんなに!?」
スーはひどくびっくりしていたのに、二人は平然と話を進めてしまう。
「ねぇドロル。ここで匿うってどういうこと? あたしを置いていこうっていうの? 嫌だ。ぜったいに嫌だ‼️」
スーはそのドロルの態度が理解できなかった。
なぜならスーは、もう自分とドロルは繋がっていると思っていたからだ。
だからいまの言葉がドロルの本心だなんて、絶対に認められない。
「でも、ずっと一緒にいるわけにもいかないし」
「なんで? ずっと一緒でいいじゃん。ドロルなんていつも一人なんだから、あたしがいた方が寂しくないに決まってるのに、置いていこうだなんて酷い!」
「な! いつも一人だなんてこと……まぁ、一人なんだが。それとこれとは話は別だろ!」
「別じゃないもん!」
「別だ!」
「ドロルは、あたしと離れ離れになってもいいっていうの⁉︎」
「そんなの——」
ドロルの言葉が詰まる。
ダメでしょ。
スーと離れたら、ドロルはだめでしょ。
ダメだって、言って欲しい。
そのときだった。
「人探しなら、ひょっとすると力になれるかもしれないぜ、おっちゃん」
背の高い男の人がすぐ近くに立っていた。
ドロルよりも若いが、スーには不健康そうに見えた。
いま大事な話をしているのだ。入ってこないで欲しい。
「はぁ? 誰よあんた。あたしは人なんて探してないんだけど」
「おいやめろ! すみません、ものを知らない子で。あの、お言葉はありがたいんですが、あまりお金がなくて……」
「お金はいいよ」
背の高い男、ダリューは有名人らしかった。
「人に親切をすると、俺の心がポカポカになるんだ」
そして、変な人だ。
ダリューは両手をパーにしてスーに突き出した。
「何を」
「安心しろおっちゃん。鑑定するだけさ。知ってる血筋なら、親がわかるかも知れないからな」
スーはすぐさま理解した。
いま自分は暴かれようとしている。
ステータスはもちろん、種族からスキルまで詳らかにされるかもしれない。
スーはまだドロルと出会ったばかりで、あまり変な子とは思われたくない。
か弱い女の子を演じなきゃ!
スーは全細胞を研ぎ澄まし、自分がスライムである要素を一時的に消し去った。なおかつあまりに高いステータスは普通の女の子としては不自然だろう。
ええと、このくらいかな。
「晒せ、汝のリアリティ。ステータス、オープン」
「ちょっとなんなの?」
調整したことがバレないように、わからないふりも忘れない。
完璧だ。
と、思ったのに。
「コ、コエテル。アウタッシュの戦闘力、コエテル」
え、ちょっとやだこの人お漏らししてるんだけど!
尋常じゃないほど動揺してる!
待って。
人間ってまさか、この程度のステータスでそんなに驚いてしまうものなの⁉︎
「そんなわけないでしょ! ちょっともう一度見てみて!」
いまのは間違いだったって、なんとか証明しなくっちゃ!
急いでもう一度、あたしを暴いてよ!
「ダメだスー。まずはズボンを着替えないと! ローブにまでしみてきてるんだぞ!」
スーは急いでもう一度見て欲しいのに、ドロルが常識的なことを言って止め出した。
やめてよ!
「そんなのもう一緒じゃん! いま替えようが、後で替えようがその人がお漏らしさんってことはもう覆せない事実じゃん!」
「そうじゃない! 臭いんだ! しょんべん臭いじゃないか! 僕はせめて、何を話すにせよ清潔な場所で話がしたい。不快なんだ」
確かにその通りで、スーは奥歯を噛み締めてしまった。
ただ、願いはダリューには届いたようだ。
「ステータス、オープン! ……あ、あれ……?」
ダリューは首を傾げた。
「ダリューさん。そんなことをするよりもまず着替えた方が……」
「普通の女の子だ。……ぜんぜん普通の、ちょっと力強い女の子だ。あ、焦ったー。なんか間違えたみたい。アウタッシュの戦闘力を超えるわけないよなーこんな幼女が! そうだよな。はっはっは。俺もまだまだ未熟なものだな。こんな見間違いをするだなんて!」
よかったー! 見間違いだと思ってくれたみたい。
意外とうまく誤魔化し通せたスーだった。