史上最強のスライムテイマー
スーに何かあってはならない。
スーは絶対に生きなきゃいけない。
スーとは出会ってまだ少ししか経っていないけれど、間違いなくドロルにとって最愛の人で、何を犠牲にしてでも幸せになって欲しい人だったから。
だからドロルは必死で嘘をついた。
スーは最愛の人じゃない。
スーなんて大嫌い。
どっかいけ。
それなのに。
それなのにそれなのに。
スーはどうして僕なんかを助けようとしてしまうんだ。
ドロルはスーを通じてその生き物の感覚が伝わってくるし、ある程度の世情を知っていればそれが何なのかは想像がつく。
シルバードラゴン。
四大凶兆がうちの一角。
都市一つを簡単に壊滅させると言われる、銀白色に輝く荘厳な龍だ。
ただ、あれの攻撃対象は現時点で自分かもしれない。
だからこそその攻撃は自分を貫いたのだと考えるのが自然だ。
だとしたら、スーはさっさとここを離れれば逃げ切れるかもしれないじゃないか。
ああ。
なんで。
どうして。
いまドロルの口はスーの口に押し当てられ、甘くて柔らかい何かを飲まされていた。
何かはおそらくスーの体の一部だ。
それがドロルの欠けた部分の代わりをし、ドロルの体の痛みを消し去り、お湯に浸かったような心地よさをもたらしている。
スーは必死にドロルの唇に自分の唇をくっつけて、それを漏らさないようにドロルの中に流し込む。
なんとも快感で、どうせ死期が近いのであればこの感覚の中で死んでしまいたいとさえ思う。
でも、こんなことをしていてはダメだ。
そんな時間は、ないのだ。
たまに息継ぎのように口を離したタイミングで、ドロルは懇願した。
「やめてくれ……やめてくれよスー。もう、もうやつがきてしまうよ。早く逃げておくれよ」
「やだ。ドロルの言うことなんて聞いてやらない」
再びスーは口を押し当て、ドロルに生命力を流し込み続けた。
その結果として。
ドロルは気がついていた。
無くなったはずの自分の下半身が、徐々に形作られていた。
歪なそれはだんだんと整えられ、骨、肉、皮膚、神経系に至るまで微細な調整が完了してゆく。
スーはだんだんとドロルとなり、痛みはとうの昔に消え去った。
力が漲る不思議な感覚に、ドロルは立ち上がった。
「——ちょ! ドロル! へ、変態!」
「な、なんだよスー!」
「し、下! 隠しなさいよ!」
「へ?」
見たところ、ドロルの下半身は丸出しだった。
それはそうだろう。
先ほど下半身ごと吹き飛んだのだ。
「わわ、子供はみちゃいけません!」
「もう!」
なぜドロルが責められているかはわからないが、しかしスーが何かを唱えると、普段きているズボンが唐突に現れた。
これで変質者に間違われずに済みそうだ。
「おお、ありがとうスー。って、そんな場合じゃない、早く逃げ……って、アレ?」
スーがいなくなっていた。
「スー、どこにいったの?」
「ここだけど」
自分の胸元のポケットから、ポケットサイズのスーが顔を出していた。
「……あれ、スーってそんなに小さかったっけ?」
「そんな訳ないでしょ。ドロルにあげたの」
「…………あげた?」
「うん。だってドロルはあたしに逃げろっていうから。あたしはここにドロルを置いて逃げるなんてヤダ」
駄々っ子のように、スーは言った。
ドロルは頭を抱える。
「馬鹿野郎! 一緒に死のうっていうのか! 僕はシルバードラゴンに狙われてるかもしれないんだぞ!」
「死にたくない」
もはや支離滅裂だ。
しかし、ポケットサイズになったスーの言葉は力を帯びていた。
「だから、ドロルがあたしを守るの。あたしの力、全部ドロルにあげたから」
「……え?」
「あたしが死なないようにするには、もうドロルが戦うしかないよ! いまからドロルはなるの。史上最強に」
「僕が……何に?」
「あの生き物を追い払うくらい強い、史上最強のスライムテイマーに、ドロルがなるの!!」
なんの不安もない笑顔で、スーが笑った。
スーが笑っていた。
だから、ドロルの不安もすべて消し飛んでしまった。
「……ああ、そうだな」
ドロルはシルバードラゴンの方をみた。
黒い点のように離れていたその生き物は、もはや目視で体の形が見えるほどになり、もう間もなくドロルのすぐそばまでやってくると思われた。
胸元が温かい。
そこにスーがいるから。
ドロルはスーを守らなきゃいけない。なぜならスーはスライムのお嬢様だから。
史上最強のスライムテイマーとして、彼女を死なせるわけには、絶対にいけないのだ。




