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【SIDE エドマンド】繊細で頼もしい仲間

 おかしい。

 何かがおかしい。


 ドロルの牧場に派遣したパーティからいつまでたっても作戦成功の連絡が入らない。そもそも依頼内容はそれほど難しいものではないはずだ。

 ドロルの牧場にいる臨時職員一人の身柄を確保すればいいだけである。彼女にはスライムの世話の方法を吐かせ、その後牧場は国の管理下とする。


 そしてすでにそこにいるクイックスライムに関しては繁殖用を残し、【シャイン】のパーティメンバーに差し出しレベル上げに使ってもらうはずだった。


 女の子を一人捕まえるだけの極めて簡単なミッションである。女の子一人に対してAランクのパーティを準備したし、しかもそこに【シャイン】のビューニッツ・ポラロまで同行させるおまけ付きである。

 なぜ魔導士はシンクロ(同調魔術)で成功の連絡を寄越さない?


 さらに言えば、ドロルと行動を共にする幼女の存在だ。

 それは間違いなく交渉材料であったため、メイドのサラに今日一日一緒に遊んでおくように指示を出した。もしそれが難しければ、地下牢に閉じ込めておくように、とも。子供に手荒な真似をするのも気が引けるので、閉じ込めるのは最終手段でもあった。


 結果としてサラは、幼女を地下牢に閉じ込めたらしい。そして改めて見に行ってみると、幼女は消えてしまったとのたまうではないか! サラめ、本当に幼女を閉じ込めておいたのだろうな! ちゃんと鍵を閉めたのだろうな!

 サラはよく働く娘ではあるが、少し奔放で抜けたところもある。ちょっと可愛いからって調子に乗ってる。


 これだけ予期しないことが起こっているのであれば、何か計算違いがあるということだ。

 なんだなんだ?


 俺の作戦は完璧だったはずだ。

 間違いなど、あるはずがないのに!


「どうした公爵さん。何か困り事でも?」


 執務室の机から顔をあげると、そこにいたのは万能鑑定士、ダリュー・クロッシェンドだ。Sランクパーティ【ブラッドレイン】のメンバーで、ドラクド火山でシルバードラゴンの存在を確認した張本人である。


 現在国ではシルバードラゴン討伐計画が進行中であり、その重要参考人として【ブラッドレイン】全員が王都に呼ばれている。


「ああ、ダリューよ。いや、こっちの問題だ。気にしないでくれ」

「いやいや、そういうわけにはいかない」


 金の短髪の男が、縦に刀傷の入った半眼でこちらを睨みつけてきた。


「心配事を抱え込みすぎるといずれパンクしてしまう。俺に話してみないか?」


 なんとも優しい男だ。

 確かにこの男は、この国で屈指の問題解決能力を持つ。話しておいて損はないかもしれない。


「シルバードラゴンの件で、【シャイン】が討伐パーティに選ばれた話は聞いているな?」

「ああ、俺は【シャイン】では荷が重いと思うがな」

「だから早急にレベルアップさせようとしているんだ。国中のクイックスライムを彼らに差し出すことでな」

「……ほう。面白い」

「そこで、この国で唯一クイックスライムを飼育・繁殖できるブリーダーがいるんだが、その男がクイックスライムを渡したくないと言い出してるんだ」


 ダリューは思案げな表情をした。


「愛情込めて育てたクイックスライムだ。可愛いのだろう」

「可愛いで計画を潰されてたまるか!」


 ばん、とエドマンドは机を叩いた。


「うわっ、びっくりした。はぁ、はぁ。急に癇癪を起こすな。公爵さんよ」

「……あ、ああ悪い」

「はぁ、はぁ。まぁ確かに、シルバードラゴンの件はこの国の存亡がかかっている。公爵さんがいっぱいいっぱいになる気持ちもわかる」


 ダリューは本当に相手の気持ちに立って物事を考えられる男である。


「そうなんだ。ドロルの野郎。絶対にクイックスライムを差し出すべきなのに、なぜそれがわからないんだ!」

「人にはいろんな考えがあるからな」

「知るかそんなもん!」


 ばん、とエドマンドは机を叩いた。


「うわっ、お、おい、やめてくれ。心臓が、バクバクするんだ」

「……あ、ああ悪い」


 ダリュー。

 本当に繊細な男である。


「はぁ、はぁ。し、しかしまぁ、そのブリーダーの気持ちと国家を天秤にかけたらまぁ、国家だろうな」


 ダリューは息を整えながら、エドマンドをなだめるように言った。


「そうだろうそうだろう」

「だったら最終的には、力ずくだ」

「力ずく?」


 ダリューはぐっとエドマンドに顔を近づけた。


「ああ、人間っていうのは可哀想な生き物だ。結局力の前では信念なんてなんら意味をなさないのさ」


 ああ。

 これぞSランクパーティ。

 万能鑑定士、ダリュー・クロッシェンドである。

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