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【SIDE スー】無駄な努力

 着せ替え大会が終わった頃には昼食時で、二人は大衆食堂でランチをした。

 提供される肉を湯水のように飲み込むスーに、サラは大層喜んでいた。

 

 そして満腹になった頃、そういえばドロルは何してるかなとスーは気になり始めた。


「あたしそろそろ戻ろうと思うんだけど」

「えー!! 今日は一日遊べると思ってたのに!?」


 残念そうに声をあげるサラには悪いが、美味しい食事があってもドロルがいなければ少し味気ない気がする。いろんな服を着ても、それをもっとも見せたい相手はドロルだ。


「ドロルって結構あたしがいないとダメなんだよね。今頃ヒーヒー言いながら泣いてると思う」

「へー……。ドロル様って意外と寂しがり屋さんなんだね。……で、でも待って! ちょっとお腹空かない?」

「? さっき食べたばっかじゃん」


 なんだか急にサラは焦り始めた。


「いやでも、さっき食べたのはお肉でしょ。お肉ばっか!」

「お肉はお腹にたまるでしょ」

「と思うじゃん!? でも、明日には不思議とお腹空いてるんだよね!!」

「明日じゃん」


 サラはもとから意味不明だが、ますます意味不明になってしまってスーでさえ心配になってくる。


「待ってスーちゃん! 今日は一日一緒にいる予定なの。それなのにそんなこと言うの、酷いよ!」


 そんな約束をした記憶は一つもないが……。

 ただまぁサラにも都合があるのだろう。それであればそれなりに時間を過ごせばいい。


「じゃあさぁ、サラもドロルのとこ行く?」

「……まさか、王宮に?」


 え?

 王宮?


「ドロルって今、王宮にいるの?」

「……はっ! いや、知らない。ドロルなんて人知らないよ!」


 慌て方尋常じゃないな。


「そ、そうだ! スーちゃん。お肉は食べたけど、まだ甘いものは食べてないよね!? とっておきのお菓子があるの! 食べよう!」

「え、うん」


 確かに先ほどお肉をたらふく食べたためお腹はぱんぱんだが、心が甘いものを求めているのもまた事実。スーは超強力消化液を生成してお腹の中のものを溶かし切り、それに伴ってスーのお腹は急速に凹んでいった。


「——え?」

「よし、お腹空いた」

「……なんかいま、めっちゃお腹へっこまなかった?」

「おやつのこと考えたらお腹空いちゃって」

「へ、へー。じゃあ、行こうか!」


 サラが案内したのは裏路地の薄暗い通りだった。


「珍しい場所にお店があるんだね」

「うん! 隠れ家的な名店なんだ!」


 サラが紹介してくれる食べ物は全部美味しいので、そのお店のお菓子もきっと美味しいに違いない。 


 カビ臭い通りは人通りもなく、確かに隠れ家にはもってこいだ。辿り着いたのはボロボロのほったて小屋で、しかも入った直後に階段が地下に連なっていた。


「こっちだよ」


 促されるまま下に降りていくと本当に真っ暗で、あかりはサラの持つ蝋燭しかなかった。

 そして最下層まで辿り着いたところで、サラにとんと背中を押された。


「え?」


 2、3歩進むと、ガチャリと音がした。

 振り返るとそこには鉄格子があって、スーはサラに閉じ込められたようだった。


「サラ、ここでお菓子が食べられるの?」


 いくらなんでも、趣向が凝りすぎてはいないだろうか。


「まさか! ……スーちゃん、ごめんね」


 悲しそうに、サラは言った。

 

「本当は一日中スーちゃんを連れ回せればよかったの。サラが一緒にいれば、いざというときにスーちゃんを交渉材料にできるから」

「交渉材料?」


 お菓子の材料じゃなくて?


「エドマンド様とドロル様の話し合いがどうなるかわからないから……。でもね、スーちゃんがどこかに行こうとするのであれば、一旦ここにいてもらうしかないかも」

「ちょっと待ってよサラ! お菓子は!? お菓子はないってこと!?」

「——え、まだ信じてたの?」


 嘘だった、だと?


「とにかくね、交渉が終われば多分出してもらえるから! なるべく早く済むように、サラからもお願いしておくよ! またね」

「え、ちょっと待ってよ! お腹、お腹空いてるんだけど!」


 なにせさっき無理やり肉を消化してしまったのだ。

 しかし、サラはそれ以上何も言わずに階段を上がって行ってしまった。


 スーは困ってしまった。

 どうやら『とっておきのお菓子』というのはここにいても食べられないらしい。


「…………けど、まぁ、いっか。ちょうどそろそろドロルと食べたかったし」


 ドロルもそろそろスーの顔が見れなくて泣いてるだろうしね。

 サラは美味しいものをたくさん知っているみたいだったので、今度別途教えてもらおう。

 

 以前ドロルの怪我を治したときに、彼の体の一部として使っている虹色スライムの万能細胞。その感覚を辿ればドロルがどこかにいるかくらいすぐにわかる。


 スーは軽く神経を研ぎ澄まし、細胞の感覚を同調させた。


 ドロルの悲しみが、スーの体の芯を突いた。


「…………うそ、泣いてんじゃん」


 何があったかは知らないけれど、ドロルは悲しくて泣いている。

 それならば、早くスーが慰めてあげなくちゃ。


 スーは人間の姿から不定形に体を溶かし、鉄格子の隙間をすり抜けた。

 階段を駆け上がり、ドロルの元へと急いだ。

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