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エドマンドの贖罪

 リュナの父が、ドロルのスライムに興味を持ってくれている。

 だからリュナが王都を案内してくれたのかとドロルは一部納得した。


 しかし、である。

 それでもわざわざドロルを籠絡する理由にはならない。別にドロルが籠絡されたとしても、シュクルベル子爵に大した旨味はないはずだ。そもそもカツカツ経営のため安売りはできないし、もしこれ以上値引きすれば牧場は潰れてしまうだろう。


 すべてに意図がありそうで、それでいて繋がらない。

 混乱するドロルにエドマンドが続けた。


「……ところでどうだ、ドロル。リュナ嬢とは、仲良くしてくれたか?」

「ば、ばか! それどういう意味だよ! 変なこと聞くなよ!」

「まだ変なこと聞いてないんだが」


 昨夜のこともありエッチな想像をしてしまったドロルだが、確かに普通のことしか聞かれてないようだ。


「あ、ああ、もちろん。彼女はとても親切にしてくださったからな。王都はぜんぜんわからないから、とても助かったよ」

「夜は同じベッドに入ったのか?」

「ああ、そりゃもうたくさん触らせて貰った」

「いま変なこと聞いたんだぞ」


 確かに変なこと聞かれていた!

 頭が混乱しておかしなことを喋ってしまったドロルだった。


 隣を見るとリュナが真っ赤になっているし、ものすごく余計なことを喋ってしまった気がする。庶民が貴族の御令嬢を触るだなんて言語道断だ。


 それにも関わらず、エドマンドはにやけた表情を浮かべて頷くのだった。


「……いいじゃないか」

「はぁ? 何がいいんだ」

「俺は実は心配していたんだ。おまえのことをな、エドマンド」

「……どういう意味?」


 エドマンドは机に両肘をついて両手の甲に顎を乗せて神妙に言った。


「俺はなドロル。おまえにフォーゴトンなんて辺境の牧場を任せたせいで人生を狂わせたことを悪く思ってたんだ」

「エドマンド……狂わせただなんて、そんな……」

「おまえが結婚もせずにこんな歳になっても独り身なのは、俺のせいじゃないかってな」


 確かに、ドロルの人生に浮いた話は一つもなかった。

 それについて、16歳から辺境で一人スライム牧場を経営していたことに原因がないとは言えない。


「ドロル。俺を恨んでるか?」

「まさか! 俺はエドマンドのおかげで今日までやってこれた。冒険者としてはまったく才能のなかった俺に仕事をくれた。だからこそ今日まで楽しく生きてこれたんだ」


 ドロルはスライムを育てる毎日を楽しんでいたから、エドマンドに感謝こそすれ恨む気持ちなんてまったくない。


 エドマンドは感慨深そうに続けた。


「それは良かった。ただ、俺なりにおまえの人生に責任を取ろうと思ってな」

「どういう意味だ?」

「ドロル。リュナ嬢と結婚しろ」

「ば——!」


 いま、エドマンドはなんと言った?


「リュリュリュ、リュナと結婚? ——ななな、なんで」

「嫌なのか?」

「まさか! 嫌なわけがない!」

「じゃあいいだろう」

「いや待ってくれエドマンド。僕が良くても、リュナの気持ちが」


 エドマンドはリュナに視線を向けた。


「嫌なのか?」

「いいえ。ドロル様と結婚できるのであれば、これ以上の喜びはありません」

「ほら、ドロル」


 エドマンドは自信たっぷりに言った。


「リュナ嬢の気持ちは問題なさそうだぞ」


 すべてが予定調和に進んでいく。

 それもドロルの都合の良い方に、である。


 ドロルからすれば、こんな縁談が本当であれば願ってもないことだ。


 何せリュナは、抜群の器量を誇る貴族のお嬢様だ。可愛くて、スタイルも良く、まだ出会ったばかりだが性格だって良さそうだ。歳なんてドロルの半分で、肌も艶々。手のひらに残る彼女の感触も最高だった。


 ドロルはこれからもフォーゴトンに住むのであれば、若い女性との出会いなんて皆無なはずで、すなわちずっと独り身で生きていくのだと諦めていたのだ。


 その諦観が、今まさに壊されようとしている。

 ずっと関わりのないものだと思っていた伴侶。もしかすると子供だって、リュナと結婚すれば望めるかもしれない。


 だけではない。

 リュナの父はシュクルベル子爵で、ドロルのスライムを卸して欲しいとの話まである。結婚すれば、確実にスライム経営まで上向くのである。


 こんなものは、嫌だなんて否定のしようがない。


「まぁ、無理もないさ。急な話だからな。ゆっくり考えると良い。答えは決まってると思うがな」


 テーブルの下ではリュナがドロルの手を握っていた。


 ——明日も明後日も……きっと私を嫌いにならないでください。


 昨夜、リュナはそう言った。

 彼女は結婚の話を、きっと知っていたのだ。彼女はずっとドロルに好意を向けてくれていた。大胆な行動にドロルは上手く対応できなかったけれど、それも彼女なりに考えてくれたことなのかもしれない。


 信じても、いいのだろうか。

 いやむしろ、騙されたところで別に失うものなど大してありはしない。

 また一つ幸せになるチャンスが、いまドロルの目の前に転がっている。


 ただ、一つわからないことがある。


「あのさ、エドマンド。貴族っていうのは、貴族同士で結婚するものじゃないのか? 僕とリュナでは、釣り合わないよ」

「おまえは自分を卑下しすぎだ。ほら、そろそろ時間だ。いくぞ」

「……どこへ?」

「授与式」


 授与式?

 なんの?

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