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依頼

「オニーサン! みんなの餌の調合完了っす! 朝ごはん、あげてきますね!」

「ああ、頼む」


 ドロルから見て、ガブリは非常に優秀だった。

 ガブリは一度教えたことは一発で覚えたし、一つ一つの仕事が丁寧だ。本人は育ちが悪いと卑下するが、所作の一つ一つは合理的に洗練されていた。


 そして、彼女は弟子だった。

 しかも住み込みだ。


 ガブリが弟子になったことに対してスーは最初こそ文句を垂れていたものの、彼女の作る食事が非常に美味で、一食食べるだけで(ほだ)されてしまったようだ。もっともガブリは家事全般こなせるがスーはほぼ遊んでいるだけなので、文句を言える立場でもないと思うが。


 と言うことで、現在ドロルの家には二人の居候が発生しているため、新たな問題が発生している。


 ——お金、なんとかしなきゃな。


 今まではドロル一人で牧場を運営していたので、働き手へのお給金は発生しなかった。

 しかしガブリは住み込みでこれだけ働くのだから何も無しではドロルとしても良心の呵責に耐え切れない。エドマンドに頼りきりだったスライムの出荷先、新たな販路を自分で切り開く必要がある。


 そしてスーだ。

 スーは相変わらず出身地などを教えてくれないし、本当の名前も年齢もわからない。最悪このままドロルの家で当分暮らすとしても教育だって必要なはずだ。しかし、こんな僻地で、おそらくハイレベルな魔導士であるスーにまともな教育を受けさせられるはずがない。


 そろそろ動き出さなければ。

 このままではお金が尽きてすべてが崩壊する。


 幸いにもほとんどの仕事はガブリに任せられるし、数日ドロルが留守にしても大丈夫だろう。機を見計らって街に出て問題を解決しなければ、と思いつつ朝日を浴びていたときにその知らせは届いた。


 日差しの中に制服を着たトラベルバトが飛んでいた。

 制服をきた魔物は国家モンスターテイマーによって使役された存在で、その役割に応じて様々な仕事をする。

 トラベルバトの仕事はもっぱら手紙の配達だ。


 ただ、身寄りのないドロルに手紙が届くことは珍しい。

 受け取り、その中身を確認すると差出人はエドマンドだった。


 ◆   ◆   ◆


「ということで、王都に呼ばれたんで少し牧場を離れたいんだ。その間、ガブに任せていいかな」


 手紙の内容はドロルに対して至急王都に来るようにというものだった。

 王都は馬でも五日ほどかかるし、エドマンドだってドロルがそう簡単にいけないことはわかっていると思うが「なんとしても都合をつけてくるように」との話だったのでよほど切迫した用事があるのだろう。


 朝食の席でドロルが切り出すと、ガブリはばんとテーブルを叩いて立ち上がった。


「えー、旅行っすか! いいなー、ウチも行きたいっす!」

「はぁ? ダメに決まってんじゃん! この旅行はあたしとドロルの二人でいくって決まったの!」


 いつ決まったの?


「悪いなガブ。どうしても、誰かはスライムの世話で残らなきゃならないから」

「ちょ、冗談っすよー。ぜんぜんいいっす!」


 最初に見せた不満顔から一点、ガブリはすっきりした表情を見せた。


「そうなのか?」

「もちろんっす! だってこの展開って、ウチの思った通りっすもん。きっと王都の誰かが気づいたっすよ。オニーサンがめっちゃ強くて、仕事を依頼したらきっと全部上手くいくだろうって」


 ガブリは自信満々にそう言うが、ドロルはそれを信じられない。

 何せ王都に轟くような仕事をドロルはまったくしていない。


「そうかなぁ」

「ええ、これは大金の香りがするっす! もし大金が舞い込んだら、ウチにわけ前を弾ませてもまったく問題ないっすから!」

「期待されてもなぁ」


 とは言うものの、そうであればありがたいことだ。

 ドロルとしてもガブリに十分なお給金を払えないことに心苦しさを感じているのだし。


「ただ、一個お願いいっすか?」

「なんだ?」

「……もし大冒険を依頼されたら…………ウチも連れてって欲しいっす」


 ガブリにしては珍しく真剣な表情だ。


「まぁ……大きな依頼でたくさんお金を貰えるのであればもっと飼育員さんを雇えるだろうし、きっとそれも可能だと思うけど。大冒険がしたいのか?」


 ガブリは少し恥ずかしそうに視線を逃した。


「実は……結構勇者になりたかったりなんかして。いえ、オニーサンを前にそんな大それたことはいえないんすけど。ひゃは」


 そういえばガブリは、もともと【シャイン】に入ろうとしていたんだっけ。

 だとすれば意外と初志貫徹しているのかもしれないなと、ドロルは思った。 


「変なの。もっと堂々としてればいいのに」


 スーが不思議そうに言った。

 スーからすれば、ガブリが自分の夢に胸を張れない様がしっくりこないのかもしれない。

 ただドロルは、大口を叩くのが恥ずかしい気持ちが手に取るようにわかった。


 冒険者は無理だ。おまえに才能はない。

 ドロル自身、昔はそんな言葉をかけ続けられた。そして現在もその言葉は、ドロルの心を縛り付け続けているのだから。

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