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【SIDE スー】約束?

 グランデオークのカタがついたので、スーはすぐさま魔物払いをした。

 スーが殺気と共に魔力を纏えば大抵の魔物は恐怖を覚えて離れていく。


 ドロルのすぐそばに腰をおろし、顔を近づける。

 苦しそうに脂汗を浮かべ、呼吸が浅い。おそらく頬骨も折れている。


 なるべく早く良くしてあげなきゃ。

 どうすべきか。


 スーは口の中に自分の細胞を凝縮した液体を作った。それをドロルの取り込みやすいところに送り込めば一瞬で全身に届くはずだ。おそらく消化器が良い。

 毒と間違えて逆流させては困る。できれば甘くて、おいしくして。


 スーはドロルの口に自分の口を合わせた。

 そしてその液体を彼の食道に流し込む。そこからスーの細胞はドロルの全身に広がる。きっと痛くて、苦しいはずだ。まず彼の神経から痛みを遮断する。これで彼の心は穏やかになるはずだ。


 痛みがなくなったら修復だ。 

 ところかしこで崩壊している彼の体を、スーの細胞が代替する。スーはドロルに少しずつ混ざり、ドロルの一部になっていく。


 混ざり合うことで、ドロルの感覚をスーは強く感じることができる。

 ああ、よかった。

 彼は穏やかに眠っている。


 スーは彼から口を離す。


「……まさか今のって、ファーストキス……じゃないよね⁉︎」


 スーは急にそんなことが気になり出した。

 スーは生まれたばかりで、その言葉の意味を知っていてもそれが何を伴うのかをわかっていないけれど。でも、大切なものな気がしたのだ。


 いや、違うよね。

 確かにドロルと唇を合わせたけれど、それは必要に迫られてのことだった。蘇生術をキスとは言わないだろう。


 でも、もしそれがファーストキスだったとしても。

 それが嫌ってわけでは、別に……。


 スーは顔が熱くなっていた。

 自分の感情が良くわからないけれど、ただドロルの少し乾燥した唇を思い出すと、それだけで胸が高鳴るみたいだ。


 ダメだ。

 こんな不純な考えでは。今は彼と混じり合った細胞が正しく彼を修復することに集中しなきゃ。


 間違えないように。

 少しずつ少しずつ。彼を修復していった。もっと早く修復もできるだろうが、絶対に失敗したくなかったから慎重になった。

 それに、こうやってドロルの側で彼のためになれる時間が、スーは嫌じゃなかったから。


 そんなときに、ドロルが口を開いた。


「天国か何かですか?」


 目を閉じたまま、そんなことを言う。

 きっといい夢でも見ているのだろう。


「違うよ。でもゆっくりしてて大丈夫」


 ドロルは穏やかな顔のままで、さらに言葉を口にする。


「……あの、いい人生を過ごせましたかねぇ?」


 それはなんとも難しい質問だ。

 スーは親のスライムたちを通じて、ドロルの人生の断片を知っている。でもそんなものは、外側から見た本当にごく一部の情報だ。


 ドロルはスライムに良くしてくれる。ドロルだって楽しそうだ。

 でも、それだけなのだろうか。


「ドロルはどう思う?」

「僕は……そうですねぇ。幸せでしたよ。スライムと一緒に暮らす日々は、本当に。……ただまぁ、スライムを育てるばかりじゃなくて、もう少し自分自身も進みたかった気持ちもありますね。最愛の人にも出会えなかったし、子供を残すこともできなかった。まぁ、僕の人生には縁のないものだったなぁ」


 縁がない。

 つまり、ドロルはこれからもその人生をまっすぐ歩もうとしている。

 それはきっと幸せなことで、恋人を見つけたり子孫を残したりという煩わしさに囚われない、穏やかな人生だ。


 でも、ドロルは心の底でそれは望んでいない。

 最愛の人も作りたかったし、子供も欲しかったんだ。


 縁がない、だなんて。


「……そんなことないよ」

「もう死ぬのに、希望を持たせることは言わないでくださいよ」

「そんな夢をみてるんだね」

「ええ、いい夢を見ています」

「きっとさ、ドロルのいい夢はこれからも続くよ?」

「そうなんですか?」

「うん」


 スーはなんだか、次の一言を言うのに躊躇った。

 そんなことを言っていいのかわからなかった。

 

 でもどうしてもいいたかったから、思い切ってそれを言った。


「最愛の人はスーっていうの」


 言った瞬間、また顔が火を吹くように熱くなる。

 でも、そんなスーの気持ちなんか知らずに、ドロルは平然と答えた。


「ああ、スー。そういえばスーは、森から逃げられましたか?」

「うん。傷一つないよ」


 あまり動揺しないのが悔しくて、スーはさらに一歩踏み込んだ。


「ドロルはスーと結ばれて、これからたくさんの子供を作るんだよ」

「ははは、スーはまだ子供ですよ。それに、僕みたいなおじさんは好きじゃないでしょう」

「そんなことない!」


 ドロルが素敵な人だったから、スーは彼に使役されたのだ。

 他のスライムだってそう。

 それなのに、そんなことを言わないで欲しい。


「もし彼女が僕のことを気に入ってくれているとしても、無理ですよ。何せ彼女はスライムらしいですからね」


 それを心配しているのだろうか。

 だとしたら、見当違いもいいところだ。


「そこは心配しないで。スライムだったとしても、子供はできるよ。細胞単位で人間に擬態すればいいだけだから」

「はは、いくらなんでも、そんなことはできないでしょう」

「ううん。できる。それをできるのが、虹色スライムだからね」


 これは、愛の言葉だと思っていいのかな。

 約束に、なるのだろうか。


 夢の中にいるドロルは、心地よさそうに穏やかに笑った。

ここまでお読みくださりありがとうございます。


ドロルとスーの物語はここから本格化して参ります!

本作品は書き溜めのない不定期更新のためブクマをしていただくと、今後もお見逃しなくお読みいただけます。


なにとぞ、よろしくお願いいたします。

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