凶兆への対抗策
シルバードラゴン。
どんなものも焼き尽くす魔力を纏った火炎を吐く、巨大で荘厳な龍である。
死の鳥。
必中の即死攻撃を持つ、黒く禍々しい鳥である。
狂亜人。
人を狂わせる、美麗な姿をした人ならざるものである。
虹色スライム。
変幻自在の細胞を持つ、神々しく輝くスライムである。
四大凶兆と呼ばれる魔物たちだ。
これらの魔物の出現により滅んだ国は数知れず。魔王とさえ互角ともいわれる人類にとっての脅威である。
そして現在、クローディア王国の南東に位置するドラクド火山において、その凶兆の気があった。
議会の円卓を囲み、貴族たちは声を荒げる。
「見間違いじゃないのか」
「そうだと願いたいのですが、発見したパーティには鑑定士がいたのです。最初はホワイトドラゴンだと思ったそうですが、異常なステータスを見た瞬間すぐに逃げ出したそうでして……。ただ、まだ本当に子竜で、いまであれば討伐が可能かと」
「馬鹿者が。すでに異常なステータスなのだろう。もはや簡単な話ではない」
「山に篭ってくれている今がチャンスなのも間違いない。幸いにも、竜の成長は遅いからな」
「しかし最近の冒険者たちは軟弱だ。逃げ出したのは【ブラッドレイン】だと聞いたぞ。この国で五指に入るSランクパーティのはずだが」
国家最強クラスのパーティが敵を鑑定した上で尻尾を巻いて逃げたわけだ。
現状の戦力で討伐できるかは割の低い賭けだと誰もが思った。
「……【シャイン】を向かわせよ」
最上座の男が厳かに呟いた。
その声に、面々はギョッとした。
「ま、待ってください! 【シャイン】は皆十代の未熟なパーティです! しかもまだAランクじゃないですか!」
「【シャイン】を行かせるくらいだったら【達人】を行かせた方がいいでしょう! 彼らは国の英雄だ。経験もある」
「【達人】は戦闘においてはもはや【ブラッドレイン】に劣るぞ。無理だ」
「【シャイン】は経験値が浅いだけで、戦闘においてはSランクを凌ぐらしいとも……」
「しかし【シャイン】は……」
最上座の男が円卓を強く叩き、空気がビリビリと震え、その場の全員の視線を集める。
「レベルを上げて向かわせよ。国中のクイックスライムを彼らに差し出し贄とするのだ」
クイックスライムは非常に素早く、倒すのが難しいスライムだ。
それ故か、一匹討伐するごとにその強さとは釣り合わない経験値が冒険者にもたらされる。『クイスラ、3匹倒せば刮目して見よ』と言われるほどに、少数倒すだけで冒険者はレベルアップする。
成長した【シャイン】であれば、あるいは……。
そんな希望が、この部屋に生まれたのは確かだ。
しかし、クイックスライムは野生では滅多に出現せず、繁殖に成功させているブリーダーもほとんどいはしない。
あるいは、そんなブリーダーはこの国でたった一人しかいないのだった。