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【ローファンタジー】 『ありふれた怪異、街の名物』

クチナシさま

作者: 小雨川蛙

 

 その神社の取り壊しについて誰も反対しなかった。

 そこに祭られている神様のことを誰も知らなかった。

 むしろ地元住民、特にご年配の方達からは「あんなもの早く壊してくれ」なんて声もあったくらいだ。

 実はこの神社、一体いつの頃からは分からないけれど宮司も居ないという。

 そんなことがあるのか? と問題になったがどうやら地元住民たちの好意によって手入れが続けられており、各種手続きについてもその時々に誰かしらが行っていたらしい。

 持ち回り制だとか、特定の誰かが対応をしているわけではなく、本当にその時々で適当に行われていた。

 奇妙な話?

 いや、むしろありふれた話だ。

 いわゆる『なぁなぁ』で適当に行われていることなんて様々な場所に存在する。

 とはいえ、宮司が居なくなってからも神社の整備がされているなんて、本当どこにでもお人好しはいるものだ。

 それだけ神社が愛されていたとでも言おうか。

 もっとも、その割には取り壊しについて誰も反対しなかったが。


 さて、神社が取り壊された当日。

 大きな事件が一つ起きた。

 社がブルドーザーで崩された途端、神社内に三百人を超える少年少女が突然現れたのだ。

 当然現場は大混乱。

 工事どころではなくなり、警察もやってきて事態の収拾に追われていた。

 現れた子供たちの年齢は幼稚園児ほどの歳の者から小学校高学年までで、ほとんどが五つの歳にもなっていなかった。

 彼らのほとんどは痩せ細っていて、中には四肢のいずれかが欠損していたり、片目が失明していたり、知恵が遅れている者さえも居た。

 彼らの着ている服はあまりにもちぐはぐで、つい最近流行っていたアニメのキャラクターがプリントされているTシャツを着ている子も居れば、まるで歴史の教科書に出てくるような着物を着た子も居り、中には裸の子も居た。

 そして、話す言葉も現代の言葉であったり、強いなまりがあったり、明らかに古い言葉を使う者もおり、とにかく滅茶苦茶なのだ。

 まるで、社を壊した瞬間にその場にあらゆる時代の子供が集められた……そうとしか表現が出来ない。


 そんな中、現れた子供の一人が数年前に行方不明になっていた少女だと分かった。

 彼女は行方不明になる直前、両親からの虐待で近隣の住民から児童相談所に通報もあったほど家庭環境に問題のある少女だった。

 彼女は子供たちの中でも比較的年齢の高い十歳で、年齢を考えれば当然『何があったのか』、『何が起きているのか』を知っているはずだった。

 それでも彼女は警察たちの問いをはぐらかすばかりで、ただしきりに「本当にあの神社を壊してしまうの?」と繰り返し尋ねるばかりだった。

 神社の取り壊しはもう覆らないと伝えると彼女は大声で泣いたが、何があったかは決して教えてくれなかった。


 子供たちは各所に預けられ保護された。

 そして、時間をかけて子供たち一人一人の素性を調べていくと驚くべきことが判明した。

 素性が分かった子供たちは皆、先の少女と同じように行方不明となった者ばかりだったのだ。

 彼らは不気味なことに行方不明になった直後から一切の成長も老化もしていない。

 行方不明になった直後のまま戻ってきたという表現が一番近いだろう。

 確認できる限りで最古の記録がある子供は何と七十年前に行方不明になった子供だと分かったが、その子供よりも『古い時代の子供』の数は二百人を超す。

 一体何があったのか?

 子供たちは何も答えない。

 町の住民も分からない。

 知らない。

 無関係だ。

 本当に何も知らないんだと言うばかり。


 この大事件をメディアは面白おかしく報道したが、子供たちが何も語らないために話題はこれ以上大きくなることもなく、次第に世間からの関心は薄れていき、最後には「当人たちが語らないのだから、そっとしておいてあげよう」とあまりにも身も蓋もない結論となりそのまま風化していった。

 子供たちは今では皆成長してそれぞれの人生を生きている。

 ・

 ・

 ・

 時間は遡り神社の取り壊し前日。

「私は消える」

 人では触れえぬ世界の中で、それは自分に捧げられた贄に告げた。

「もう守れない」

 それは泣いた。

「ごめんなさい」

 それは謝った。

「どうか幸せになって」

 それは願った。


 死人に口なし。

 そんなあまりにも無礼な人間の願いから生まれたそれは『自分の存在を消し去ってほしい』と静かに命じて自身に捧げられた贄を全て解放した。


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