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6.それが例え意図せずことでも

「タロ先輩、あれ例のスタンプじゃないですか?」

「またか、よし。サクッと起動してこい、俺は離れておくから」

「えー、また私!? タロ先輩が起動してくださいよ、サイズ的にもそっちの方が小さいですし」

「なんだと!?」


 先日のノーフェイス模倣スタンプ事件から約一週間。

 西地区を中心に何件もスタンプの罠が仕掛けられ、実際にうっかり起動し檻に捕らわれてしまった人がいたもののその被害は最小限に抑えられていた。


 と、いうのも、予定通り事件が発生した翌日には運営からの警告お知らせを配信して貰えたからである。

 

 対処法も、違法スタンプの上から公式のスタンプを重ねて押しその場から離れるだけという単純かつ誰にでも出来ることだったお陰で電脳セキュリティへ入る通報も想定よりずっと少なかったのは幸いだろう。


“もっとバンバン連絡が入ってCC内を駆け回ることになると思ってたんだけどな”


 所詮は模倣。

 本物のノーフェイスのように騒がせることはないということなのかもしれない。



「まぁ、CC内では一人で過ごす人より誰かと一緒に行動してる人が多いのも理由のひとつかもな」

「確かに一人の時間を楽しむならわざわざCCへ《ダイブ》する必要はないですもんね」


 もちろん電脳世界でゆっくり一人で過ごしたいという人もいるが、大体は友達や恋人との遊びやデート場所として《ダイブ》することがほとんど。


“見回すだけで何組ものカップルが視界に入るし――”


 何気なく辺りを見回した私は、ふとあるカップルに目が止まった。


 そのカップルはごく普通のカップルで、違法アバターなどももちろん使っておらずノイズなんかも入っていない。


 というか、ほぼ初期服のようなシンプルコーデのエルフアバターのカップルだった。


 仲睦まじく歩く二人、会話は聞こえないがパーティーチャットで話している場合が多いのでそこに対しても違和感はない。


 ごくごく普通のカップル……に見えるのに、何かが私の中で引っかかる。



「アユ?」

「……あのカップル、《マーク》です」

「了解」


 《マーク》とは、違法までは見つからないが違和感を感じた時などにアカウント名を確認し印を残しておく電脳セキュリティに与えられた特殊権限のひとつである。

 

 私はこそっとタロ先輩にそう告げ、彼らとすれ違い様にアカウント名を確認し『要注意』として印だけ残した。



 私が違和感を感じたと告げたからか、すれ違い様にタロ先輩は《サーチ》=過去の違法行為の確認をしてくれていたようだが、どうやら何も引っかかりはしなかったらしい。



“見た目も履歴も真っ白で、何の変哲もないどこにでもいる恋人同士……”


 だが、私はふと感じたあの違和感をどうしても拭えず、《サーチ》で調べたアカウント名をただただ眺めていた。


「『akihiko.f』と『hana.f』か……」

「CCが普及し一般化したのはそこまで最近じゃないのにそのローマ字の名前アカウントと末尾が同じところを見ると、そこそこ年配のご夫婦なのかもしれないな」


 タロ先輩のその推測に思わず首を傾げると、まるで先生のようにコホンとわざとらしく咳払いをしたタロ先輩が説明をしてくれた。

 見た目は可愛い黒柴だが。

 


「今は平仮名、片仮名、漢字となんでもアカウント名に使えるが、初期の頃はローマ字でしか登録出来なかったんだ」

「でも、アカウント名の変更ってそんなに難しくないですよね?」

「確かにな。だが、わざわざ変える必要はないからとずるずる使っているユーザーは大体年齢層が高い傾向にあるんだ」


“それはそうかも”


 ユーザー名を変える必要があるとすれば、CC内でタレントのような仕事をしている人たちや、友達同士でお揃いの記号を付けたい人。


 萩野のように自分とは別の人として存在したい人など様々だ。

 


 反対に名前を変えない人は、とりあえずアカウントを作っただけの人やそもそも操作方法がわからない人などが多い。


 もちろんネット関係が得意な人だって沢山いるが、遠方に住むお孫さんと遊びたい、というようなおじいちゃんおばあちゃん世代が傾向としてはどうしても多くなってしまう。

 


「もしかしたら、違法だと気付かず何かしてしまっている可能性もあるな」

「それはあるかもしれませんね」


 あのカップルは二人とも初期服に近い衣装を着ていた。

 ということは、衣装の着せ替え方法すらわかっていないという可能性もある。


“こうやって着替えるのよ、って誰かに教えられて一回着替えたけど戻すことも他の衣装に着替えることも出来なかったパターンか”


 となれば、タロ先輩が言うようにそれが違法だと知らずにやってしまっているという可能性が高いかもしれない。



「まずは感じた違和感の正体を調べないとですね」

「あぁ。そこはアユの得意分野だな、頼んだぞ」

「もっちろんです!」


 規律を守る電脳セキュリティの一員として、私は暫くあのカップルを調べることにしたのだった。

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