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1.アルバイトのお時間です

 急いでお風呂に入り簡単にご飯を済ませた私は、そのまま自室の勉強机に座る。

 時間は17時45分。


“間に合ってよかった”


 18時からのバイトに間に合いそうなことに安堵しつつ、机の端のスタンドにかけていた小さなゴーグルに手を伸ばす。



 電脳世界『CC』。

 そのCCに接続すること=≪ダイブ≫といい、そして≪ダイブ≫するのために必要なのがこのゴーグルだ。


「確か一昔前はヘルメットみたいに大きな装置で潜っていたんだっけ」


 大手企業がこぞって参入したことにより爆発的に進んだ電脳世界は、その接続の要ともいえるこのゴーグルの軽量化が成功したことにより老若男女問わず身近な存在になり、今ではそのCC内での仕事で生計を立てる人も多くいる。

 そんな電脳世界での仕事の一つとして、ネット犯罪を取り締まる機関が『電脳セキュリティ』である。


 いわばこの『CC』内での民間警察的役割を担っている電脳セキュリティの仕事は、主に巡回パトロールとユーザーからの通報や問い合わせ対応など。

 迷惑行為の取り締まりや喧嘩の仲裁もあれば、操作方法やエラー対応まで手広く対応しており、CCサーバーの運営と提携しているだけではなく現実世界の警察とも密な関わりもあったりする。


 電脳世界と現実世界は繋がっているのだから当然と言えば当然で、そしてCC内での電脳セキュリティという存在はかなり大きい――にも関わらず、こんな一高校生がバイトをしているというのは普通はあり得ないのだが、私はなんとその電脳セキュリティから直接スカウトされて入社したという経歴の持ち主だった。


「正直ちょっと自分凄い、なんて自惚れる……って、そんなこと言ってたらもう53分!? 遅刻しちゃう!」



 まだ少し時間に余裕がある、なんて思っていた私は気付けばもう遅刻ギリギリだということに気付き慌ててゴーグルを着用した。



 ――≪ダイブ≫!


 ブゥンと小さな起動音がし、すぐにポップなメロディが私を包む。

 そっと目を開けるとそこはもはや見慣れたとすら言える可愛くカラフルな街並み。そして≪ダイブ≫した位置の目の前にあるどこか可愛いカフェのような外観の建物こそ電脳セキュリティの本部だった。


 

「お疲れ様です!」


 カラン、とドアを開けると中は少しレトロなカフェ風になっている。


「アユ、ギリギリ~」

「アユちゃん学校お疲れ様」

「タロ先輩、美里さんも! タロ先輩は相変わらずもふもふで可愛いです、今日もお散歩しましょうね~」

「おい! 先輩って言いながら相変わらず敬ってないな!?」


 ユーザー名が太郎なので私が勝手にタロ先輩と呼んでいるこの先輩こそ私を電脳セキュリティにスカウトしてくれた人であり、そしてツーマンセルが基本のこの電脳セキュリティにおける私の相方だった。

 

“敬ってないって言われれもなぁ”


 ちらっと目線を下げると、プンプンと怒った表情の黒柴アバターと目が合う。

 そうなのだ、このタロ先輩のアバターはまさに柴犬。可愛いにもほどがある。


 パトロールだってこれが現実世界ならただの散歩という絵面だろう。


「しょうがないよ、太郎君可愛いもん。本当になんでそのアバターにしちゃったの」

「俺はこの四足歩行アバターのテストユーザーも兼ねてたからですよ。それにこの見た目ならNPCに成りすましてどこでも入り込めるなって」

「それで嗅覚までついてたら最高なんですけどねぇ」

「アバターだからな……って、アユお前俺に何させようとしてんだよ!? 俺は犬じゃないぞ!」

「見た目は完全に犬ですよ」


 遠慮なくそう言うと、タロ先輩が小さく呻く。

 それでも失礼だとか怒らずこんな軽口を受け止めてくれるこの先輩を実は尊敬していた。

 もちろん本人には言わないけれど。


“というか、本当にすごいんだよね。タロ先輩って”


 この電脳セキュリティ内でもトップクラスの検挙率、だがその実力に驕ることなくユーザーの声を真摯に聞く姿勢。

 この黒柴のアバターも相まって親しみがあり人気も高い。


 実力と人気も兼ね備えているだけでなく、何もわからなかった私の長所を伸ばし、電脳セキュリティのメンバーとして活躍できるよう育ててくれたのもこの人だ。



「相変わらず仲良しさんね」


 ふふ、と優しく微笑むのは百貨店のコンシェルジュにいそうなどこかカッチリしたスーツのきれいなお姉さんアバターの美里さんだ。

 彼女は電脳セキュリティの受付かつコールセンター業務も担っており、入ったトラブル連絡を私たちに回して指示をくれる。

 

 この穏やかで少しおっとりした話し方に反して仕事の手がとにかく早く、まさに出来る大人ってやつで私の憧れだ。

 そしてそんな美里さんが両手をパンッと叩く。


「でもほら、二人ともお仕事の時間ですよ」

「わ、はーい!」

「いってきます」


 促され確認した時間はとっくに18時を過ぎており、私とタロ先輩は慌ててドアから飛び出した。

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