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闇夜

陽一のマンション、高級マンション、高級住宅街、富をもっていた。ただどこかの会社の社長の息子だと純一は思っていた。 陽一に家族の話題を振ったことがあった。微笑しか返ってこなかった。マンションの前の道、入り口から残りの距離五メートルのところで停車した。後部座席、 啓二はいまだ眠っていた。


「さてと、こいつ担ぐから手伝えよ」


声、従った。啓二の右手をもった。右脇に肩をさしこんだ。左脇には陽一がいる。


「啓二を泊めてやるのか」


「ああ、治療もしてやらないとな」


意外だった。陽一、冷淡な部分しか見たことがなかった。情を感じているのか――酷薄な微笑が夢想をぶちこわした。


「純一」


平坦な声で名を呼ばれた。わかってるよ、落とし前をつけろってことだろ、言う代わりに純一は財布から札束を取り出した。差し出した。


「二万三千あるな――安っぽい淫売でも買えば啓二の気も少しは晴れるだろうな」


「なだめてやってくれよ」


「わかってるよ。俺はお前達が好きだしな」


「俺は別に好きじゃねぇよ」


「じゃあなんで俺達と一緒にいるんだ」


「一緒に居たら迷惑か」


「そうでもない。わりと楽しい」


陽一、少しも楽しそうに見えない。瞳の色、考え方、表情、感情、何も読み取ることができない。


「それによ、純一」


陽一の声、身震いするぐらい低い声だった。暗い声だった。闇の中にいる者の声だった。


「俺は啓二よりお前が好きだぜ」


淀んだ目、濁った目、真っ暗闇の中の泥沼のような瞳、以前、見たことのある目だった。白月村を出る時の朝に見た目だった。 それは洗面所の鏡の向こうにあった。まっすぐ純一を見つめていた。それは純一の目だった。呪わしかった。見るのは耐え難く 嫌悪した。


合わせ鏡の向こう、啓二がいるはずだった。違った。陽一がいた。薄ら笑いを浮かべて嘲っていた。陽一の顔が自分の顔に見えた。愚にもつかない錯覚だった。だが、これっぽっちも笑う気になれない。


陽一の中にある何か――初めて、垣間見ることができたような気がした。























郵便ポスト、ピンクチラシ、取り忘れた新聞、簡素な便箋――綾香からの手紙、丁寧な包装、丁寧な文字、丁寧な文体、内容、頭の 中を右から左へ流れていく。


それなりに楽しくやっていること、それなりに辛いことがあったこと、それなりに将来について語っていた。


2LDKの部屋、ソファーに腰掛けた。テーブルを見つめた。返事、いつもどおり二、三行の短文を書くはずだった。できなか った。サインペンを持つ手が震えた。返事用の便箋を破り捨てた。啓二とのいさかいで生まれた胸のむかつき、まだくすぶっている。


アルコールで頭をふっ飛ばしたくなった。時刻――夜の一時、明日のことを考えれば眠らなければいけなかった。 眠る気になれなかった。


キッチンに駆け出した。冷蔵庫、酒は切れていた。舌打ち、二百メートル先のコンビ二まで行くかどうか迷った。胸のむかつき、何かに集中 しなければ忘れられそうにない。


お前は何もわかっちゃいねぇよ――陽一の声、リフレインした。


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