荒廃
啓二と陽一、純一と啓二、純一と陽一、薄い糸でつながれた関係、友情、目に見えないもの、視ることができないもの。 存在自体が疑わしいもの、ただ享楽だけが三人の共通点だった。
酒を飲み、女を抱き、博打に酔う。大学生なんてもんは大概がフリーターと変わりませんよ、大学の教授の言った言葉、 真実のようで、異なっているようでもあった。
退屈から逃げたくなって白月村を出た。何かが変わると思っていた。幻想だった。二年経った今も何も変わってはいない。
もしも変わったとするならば考え方が変わったかもしれなかった。より多くのことを考えるようになった。単純に生きていた。複雑になってきた。日々に疑問を持ち始めた。このままでいいのか――何が悪いっていうんだ。答えは出たためしがなかった。
大学には多くの人種がいた。夢に生きる奴、勉強に励む奴、部活に励む奴、女に溺れる奴、無為に過ごす奴。いろんな奴がいた。
啓二――女に狂っている。
純一――無為過ごしている。
陽一――陽一だけは本当に何を考えているかわからない。純一は陽一の考え方が読めなかった。読めた ためしがなかった。
顔立ちは良かった。女装したらそそるかもしれねぇな、啓二の何気なく言った言葉、陽一は笑った。純一も笑った。だが、純一は心の 中で頷いていた。恐らく啓二も。
陽一、いつも酷薄な微笑をたたえている。椅子に腰掛けた三人の女達、全て陽一を見ているように錯覚する。
飯を食う手はずになってる。その後はカラオケ、その後は――言わなくてもわかってるよな、色めきたった 啓二の声、ノイズ、女の話題は全てノイズに聞こえる。
「純一、どうしたんだボーっとして」
啓二、血走った目、何かにとりつかれた目、女を抱きたくてしょうがない時の男の目、合コンに来た時に啓二がこの目を見せなかった時はなかった。
「わりぃ、飯食ってるせいか胃に血が行き過ぎて頭が吹っ飛んでた」
ジョーク、女達が笑った。純一も愛想笑いを浮かべた。焼肉店、暗闇、アルコール、肉、野菜、喧騒、陽一はカクテルを飲んでいた。 啓二はビールを飲んでいた。純一もカクテルを喉に流し込んだ。
女達を見た。褐色の肌、パーマのかかった茶髪、作法の欠片もない乱暴な手つきで肉やアルコールを体内に取り込んでいる。砕けきった口調、ストレッチブーツ、ブランド物のカバン、露出度の激しい服、目立つ厚化粧、全身で自分は馬鹿だと アピールしていた。
純一の好みではなかった。陽一はわからない。だが、啓二の好みだった。
啓二は何かを女達にまくし立てていた。壊れた蓄音機のように言葉の端はしを切った口調、面白い男を気取っていた。話題、 スポーツ、流行、ファッション、うまい食い物、好みのタイプ、探りを入れているのだとわかった。
「おっと、肉が切れそうだな。お前らさ、何か食いたいものあるか?」
啓二の伺うような声――翻訳、お前らはどの女にする。
「俺はなんだっていいよ。純一はどうする」
「俺は――ジントニックが飲みたいな」
啓二、顔を露骨にゆがめた。陽一、気乗りはしないが付き合うと答えた。純一、まるで気分が乗らないと答えた。
陽一が純一を見た。付き合ってやれよ――第一、お前がいなくちゃ俺が帰れねぇ。
一瞬の咎めるような視線で言いたいことはわかった。純一はヤケクソ気味に頷いた。