第九十三話 罠にかかった二人の戦士
ソーニャの町から東に50kmほど行くと、南北に続く断崖絶壁の地形がある。その最東端の一角にそびえ立つ大灯台に向かって、二人の戦士が森の中を歩き続けていた。
「カルロス、本当にいると思うか、彼女が?」
「俺だって最初は疑った。だけどほかにルウミラが行きそうな場所もないだろ?」
「それもそうだが……なんか怪しくないか? なんで今更俺達と会いたがる?」
「知るかよ。突然消えた挙句、俺達に恥をかかせた。ただでは済まさねぇ、かならず痛い目を遭わせてやるからな!」
カルロスは苛立ちを隠せない。昨日起こった自分の災難は、全てルウミラの突然の失踪にある。もはやルウミラに対して一切の容赦をしないと誓っていた。
「それはそうと、カルロス。昨日のことだが、吹き飛ばしたりしてすまなかった」
「いいって、謝らなくても。俺だってどうにかしてた。もとはといえば全てルウミラのせいだからな、あいつさえ倒してしまえば……」
「おい、見ろ。あれを!」
バティスタが叫び指をさした。はるか前方に紫色のフードを被った小柄の女性が立っているのが見えた。
「あいつは……待ちやがれ!」
女性はカルロス達の姿を確認すると走りながら去っていった。カルロスもすぐさま走った。
「おい待て! 迂闊に近づくな、多分罠だ」
「罠だろうと知ったことか。あの女、今度という今度は逃がさねぇ!」
「くそ、いい加減その性格なんとかしろ!」
カルロスの短気なところに呆れながらも、バティスタも走り出した。
紫色のフードを被った女性は二人に追いつかれないよう逃げ続けた。ところが森を抜けると、すぐに女性は断崖絶壁の淵に行き着いた。
垂直に切り立った崖の何十メートルも下に広がる海、女性は逃げ道を失った。
「追い詰めたぜ、さぁ観念しな!」
後ろから男の声が聞こえ、女性は振り向いた。カルロスとバティスタはもう目の前までやってきた。二人の男の戦士が武器を持って構え、自分に敵意を向けている。
「あの、待ってください! 私は……」
女性は必死で呼びかけるもカルロス達は武器を下ろさない。
「ルウミラ、昨日はよくも俺達に恥をかかせてくれたな。無断で敵前逃亡を図ったその落とし前、きっちりつけさせてやるぜ」
「待って! 人違いです、話を聞いてください!」
「何わけわかんねぇこと言ってやがる!? この期に及んで見苦しいぜ、俺達に勝てねぇからと言って変な言葉で惑わすつもりだろ? 引っかかるかよ」
カルロスは槍を持ったままジリジリと間合いを詰める。だがそんなカルロスを見て、女性は丸腰のまま足を震わせるだけだ。バティスタは異変を感じた。
「……おい待て! その女は!?」
「どうした? ……って、なんだこれは!?」
カルロスの足元に円形の黒色の魔法陣が浮かび上がった。直後、カルロスの体の周囲を取り囲むように地面から黒い靄が出現した。
「ぐわぁああああああ!」
「カルロスー!!」
「ひぃいいい、何なのよこれ!?」
バティスタがカルロスに近づくも、膨大な黒い靄のエネルギーによって行く手を阻まれる。フードを被った女性は目の前で起きていることが信じられず、ますます震え上がった。
「これは……〈呪縛陣〉か?」
「その通り。だけど私が少しだけ改良を加えた」
バティスタの背後から別の女性の声が聞こえた。青色の髪の女性は口元をマスクで被っていた。バティスタは見覚えがあった。
「お前は……ルウミラ!?」
「ふふ、まさか同じフードを被せただけで私だと思い込むとはな。単純にもほどがある」
ルウミラはフードを被った女性に近づいた。女性はすぐさまフードを脱ぎ、ルウミラに手渡した。ルウミラはいつもと同じ格好に戻った。
「あの……私はどうしたら?」
「あぁ、そうだな。身代わりご苦労だった。これは報酬だ、戻っていいぞ」
女性は金貨数枚をルウミラから受け取ると、すぐさまその場から走り去った。
「さてと……あとはお前達だが……」
ルウミラが振り返る。目の前に彼女に対して敵意むき出しのバティスタが、斧を構えたまま立っていた。
「カルロスに何をしたかはわからないが、すぐに解放してもらおうか。さもなければ……」
「安心しろ。殺しはしない、私の実験に役立ってもらうだけだ」
「実験だと!? 何ふざけたことを言って……」
「ぐがぁあああああ!!」
バティスタは振り返った。さっきまで蹲っていたカルロスが起き上がり、異様なうめき声を上げていた。
「カルロス、大丈夫か!?」
「うぅぅ……ぐがぁあ……がぁあ!」
「おい、どうしたんだ!? カルロスに何をした?」
「ふふ、さっき〈呪縛陣〉に改良を加えたと言っただろ? 相手の脳を支配する効果を加えてね」
「なに? 相手の脳を支配するだと……!?」
「そうだ。だが……その様子だと、まだ完ぺきではないのかな。もう少し〈幻朧石〉の量を足すべきだったか」
「ぐがぁあああああ! ぐおおおおおお!」
カルロスはさらにうめき声を上げ続けた。そして槍を構え、目の前にいるバティスタを睨みつけた。
「攻撃しろ。ただし殺すなよ」
「カルロス? よせぇえええええ!」
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