第八十一話 巨雷鳥現る!
ホルスの声が聞こえた。今頃のこのこ戻ってくるなんて、なんか怪しいな。
「お帰り、ホルス。こいつはサンダーガルーダさ、俺がもう倒したから安心しろ」
「サンダーガルーダ? どうりで雷がドンドン鳴っていたわけだぜ。だけど倒しちまうだなんてな、さすが俺が見込んだ男だ!」
「それはそうと、ホルス今までどこにいたわけ? 随分戻るのが遅いじゃない?」
エイダが詰問した。
「おいおい、何言ってんだよ? パメラちゃんを治す薬を取りに行ってきてたんだぜ。ほらよ、〈癒し風水〉だ。これで〈酔い〉は覚めるぜ」
「ありがとう。だけどもう治っちゃったみたい、けっこう時間が経ったから」
「ありゃ、そうなのか。いやぁ、すまんすまん。俺も久しぶりにこの遺跡に来たんでな、ちょっと道に迷っちまって」
「ふーん、そうかしら?」
ホルスが言い訳がましく言っているが、エイダは素直に聞き入れそうにない。
「なんだよ? 何を疑っているんだ? 俺が嘘ついているとでも?」
「そうよ。っていうか、あなた。絶対どこかに隠れてたでしょ?」
「隠れてた? おいおい人聞きの悪いことを言わないでくれ。一体何を根拠にそんな……」
エイダは持っていた杖をホルスに見せつけた。
「私は魔道士よ。探索魔法の〈サーチ〉であなたの居場所までわかってたのよ、あなたの点はずっと動かなかったわ」
「う! いや、それは……」
「ホルス、いい加減にしろよ。俺だって気づいてたんだ、お前が下の建物の影にずっと隠れていたのを」
「うぅ……その、なんというか……決してサンダーガルーダが怖くてビビッていたわけじゃないからな。本当だぞ、信じてくれ!」
俺もエイダも呆れてしまった。今の言葉ですべてわかった。ホルスは本当に口が軽いな。
「はいはい。もうわかったわ、それより薬はありがたいからもらっておくわ」
「え? もう〈酔い〉は覚めたんだろ、だったら……」
「もう、隠れてた上に遅刻してきて、よくそんなこと言えるわね! 本来なら依頼料もっと引き上げるところよ」
「だぁ、わかったよ。ほらよ!」
「ありがとう。それよりエイダ、こいつの戦利品ももらっておかないとね。サンダーガルーダも五つ星だから、かなり高額に取引が……」
バァアアアアアアアアン!!
巨大な爆発音が響いた。
「なんだ!? 今の音は?」
「南の方から聞こえてきたわ。まさかその方角にあるのって……」
俺達は全員音がした方角を見た。すると再び爆発音が響き、強烈な光が見えた。
「あれ……あの大型の建物って?」
「あれが中央広場だ! ジョージはあそこの近くにいるんだが、一体何が起きているんだ!?」
「ホルス、こういう時こそあなたの出番でしょ? 鳥なんだから、飛んできて偵察してきて!」
「うぅ……そんなこと言われても……エイダこそ魔道士なんだから、どうにかしてくれ」
「あのねぇ! 何でもかんでも魔道士を頼りにしないで! 私のMPだって無限じゃないのよ!」
三度目の爆発音が響いた。そしてやはり強烈な発光も見えた。ホルスはオドオドしていて、とても期待できそうにない。
「依頼料、一人金貨三枚ね」
「わかったよ、見に行けばいいんだろ! ちょっと待ってろ!」
ホルスが慌てて飛び出した。それにしてもサンダーガルーダの戦利品を取っている場合じゃなかった。
この音の大きさからして、明らかにヤバい奴がいる。俺は嫌な予感がした。
「一体何なのよ? まさかサンダーガルーダがまだいるってこと?」
「ロバート、今度は私達にも倒させてね。経験値があなただけじゃ不公平だから」
「……いや。今度のはそう簡単に倒せそうにないよ」
「え? 何言ってんの?」
「ロバート、もしかして……」
パメラは俺が言おうとしていることを察したようだ。
「見間違いじゃなかったってことさ」
「ぎゃああああああああ!!」
遠くからホルスの悲鳴が聞こえてきた。
「今の声はホルス!?」
「見て、戻ってきたわ!」
ホルスが猛スピードで俺達のところまで戻ってきた。と思ったら、スピードを緩めずそのまま俺達を素通りしていった。
「ちょっと、ホルス! 待ちなさい! どこ行くの?」
「勘弁してくれ! あんな奴がいたんじゃ命がいくつあっても足りねぇ! 俺は逃げる!」
なんて薄情な行動だ。だけどホルスのあの様子からして、俺の予想は当たっている。
「エイダ、パメラ、行くぞ! ジョージのこともそうだけど、あそこに出現しているのは間違いなく奴だ!」
「あ、あれは!?」
その時中央広場から巨大な鳥のモンスターが姿を現した。見上げたその先に巨大な翼を広げたその姿は、ゆうに三十メートルくらいはありそうだ。サンダーガルーダが小さく見えるほどの巨大さだ。
そして頭部には一本の角が生えていた。その角が雷を帯びているのか、火花を散らしながら光っている。
あれは間違いない。
「ケツァルコアトル!」
古代遺跡の中央広場にて、もはや満身創痍となった戦士達がいた。
「くそ……なんでこんなことに……」
「甘く見ていた。予想以上の強さだ、俺達では歯が立たん」
中央広場は、ケツァルコアトルの稲妻攻撃の傷跡だらけとなった。そんな極限の戦場でかろうじて立っていられたのは、カルロスとバティスタの二人だけだった。ギルドで雇ったランクBの戦士二人は早々に戦意喪失し、逃げて行った。
そして彼らの最強の助っ人となるはずだった魔道士の姿もいない。
「ふざけんなよ! 全てあの女のせいだ! ルウミラめ、なにがランクSだよ。やっぱりただの臆病者じゃねぇか!」
「本当に逃げたというのか? というより、消えたという方が正解だと思うが……」
ルウミラが突然消えたのは、カルロス達にとって完全に誤算だった。もはや逃げたと思い込んだカルロスは苛立ちを隠せない。
「きりゅああああああああ!!」
耳をつんざくほどのモンスターの雄叫びが轟く。そして再び雷鳴が走った。
「カルロス、危ない!」
カルロスの真横を稲妻が走る。かろうじて回避したが、稲妻の攻撃は止むことなく次から次に襲い掛かる。
「どうすればいいんだ? このままじゃ……」
「どうするもこうするも、退くしかないだろ!」
「ふざけんな! このまま何の成果もなく、おめおめと帰れってのか!?」
「ルウミラがいない以上俺達に勝ち目はない! 悔しい気持ちはわかるが、堪えるんだ! 生き延びる方が大事だろ!?」
「ぐぅ……くそ! わかったよ!」
カルロスは苦渋の決断を下し、バティスタと一緒に退却を試みる。しかしそうは易々と逃げられない。
ドォオオオン!!
「うぉお!?」
「カルロス!」
カルロスのすぐ横の壁にケツァルコアトルが放った稲妻が直撃した。直撃した壁が崩落し、大量の瓦礫が落下してきた。
「任せろ! うぉおおお!」
バティスタがカルロスをかばう。両手に持った大盾により、落ちてきた瓦礫を防いだ。
「大丈夫か!?」
「なんとかな。それより気をつけろ、第二波が来るぞ!」
態勢を立て直し、二人は再び退却を始める。しかしふと後ろを見たバティスタは、異変に気付き立ち止まった。
「どうした、急に立ち止まるなよ!?」
「奴の姿がない!」
「なに!?」
カルロスも後ろを振り返った。ケツァルコアトルの巨大な姿が消えていた。
「馬鹿な……一体どこへ?」
直後、二人は巨大な影に包まれる。
「まさか!?」
嫌な予感がしたバティスタがすぐ真上を見た。なんとケツァルコアトルが、すぐ頭上に現れ二人を見下ろしていた。
あの巨体で一瞬の間にどうやってここまで、そんな疑問を考える暇もなく、ケツァルコアトルの頭部の長い角が発光した。強烈な稲妻の一撃が、今にも二人に振りかかろうとしている。二人はもはや身動きができなかった。
「ここまでか……」
死を覚悟したバティスタだが、直後またも予想外なことが起きた。
「おい、あれを見ろ!」
カルロスはその姿をとらえた。眩しい光によってはっきりとは見えなかったが、強烈な稲妻は同じく空を飛んでいた一人の戦士に直撃した。
だが稲妻が直撃した戦士は、全く動じず剣を構えたままケツァルコアトルと対峙している。カルロスもバティスタも何が何だかわからなかった。
「な、なんだ……あいつは?」
「子供に見える。しかも空を飛んでいる……だと?」
明らかに子供の背丈しかないその戦士が、二人の方へ向き直った。その顔を見たカルロスは一瞬目を疑った。
「まさか……あのガキ!?」
目を凝らしたカルロスは確信した。紛れもなく一昨日自分と戦った貴族の少年だった。
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