第七十九話 初めての転移魔法は危険だった?
なんとパメラが俺の右手をぎゅっと掴んできた。そして俺に体を寄せ付けた。
これは予想外な展開だ。多分少し怖がっているんだろう。パメラも意外な一面があるんだな。
「だ、大丈夫……だからな。エイダの魔法だ、絶対に北の古代遺跡に行けるさ、はは……」
俺は平静を保たないといけない。前世でも若い女性から強く体を押し付けられた経験が少ない俺は、ドキドキが止まらない。
「そうね。けど、なんだか気分が……」
パメラの様子がおかしい。そして次の瞬間、宙に浮かんでいた感覚は消え、固い地面の上に着地した。
「着いたわ、みんな大丈夫?」
エイダが声をかけた。目を開けると、再び暗い石造りの空間が目の前に広がっていた。
「ひょお! 間違いねぇ、ここは北の古代遺跡だ。あんたら本当にすげぇ、やっぱり雇った甲斐があったぜ!」
ホルスがはしゃいでいる。無事に着いたのはいいが、相変わらず俺達を雇った気でいるな。俺はその気じゃないんだが。
「大丈夫さ、それよりパメラは?」
「うぅ、おえ……」
「ちょ!? パメラ、どうしたの?」
パメラがいつの間にか俺から離れ、地面にうずくまっていた。よく見たら口元を抑えている。
「だ、大丈夫……ちょっと頭が……クラクラして……」
「いや、大丈夫じゃないだろ。無理に立とうとするな」
「ごめんなさい、言い忘れてたわ。パメラは転移魔法初めてだったわよね?」
「転移魔法を初めて経験すると、〈酔い〉の状態になるんだ。俺もジョージも最初は同じ目に遭ったっけ」
なるほど、〈酔い〉だったのか。状態異常の一種だけど、そういえば転移魔法の初使用時にかかるという設定があったっけ。
「あれ? ロバートは平気なのか、まさか転移魔法の経験があるってのか?」
「はは、まぁね……」
もちろん俺も転移魔法は初めての経験だ。だけどここで俺の状態異常耐性の数値を自慢しても余計混乱するだけだからな、適当に誤魔化そう。
「それはそうと、パメラをどうにかしないと。何か薬は……」
「無理ね。〈アンチドランクネス〉が使えれば治せたんだけど、私の専門じゃないし」
「治癒魔法が使えないんだったら薬を……あ、ないか」
薬で〈酔い〉を治すには、〈癒し風水〉という薬アイテムが必要だ。だけど俺は持っていない。エイダも首を横に振った。
「ちょっと待ってくれ! こんなこともあろうかと、ジョージが薬アイテムを備蓄している隠し部屋があるんだ」
「本当か、それは!?」
「俺がそこまで行って〈癒し風水〉を取ってくるから、ここで待っててくれ!」
ホルスがそう言い残し、外へ飛び出していった。
「行っちゃった。でも大丈夫かな、一人……じゃなくてあいつだけで行かせて」
「大丈夫でしょ。あの様子だとここに何度も訪れているみたいだし、それに鳥だからモンスターに遭遇してもすぐ逃げられるでしょ」
エイダの言う通りだな。それよりパメラが気になる。まだうずくまったままだ。俺はたまらずパメラのそばまで寄った。
「パメラ。ホルスが薬を持ってきてくれるからそれまでの辛抱だ、頑張ってくれ」
体調が悪い女性に必死で声をかけて励ます、そんな経験も前世の俺にはない。女性経験がほとんどない俺にとって、いくら異世界とは、ここで変なことをしたら間違いなくヤバい奴だと認識されてしまう。
こんな時、どうしようか。そうだ、背中をさすってあげたら。俺はそっとパメラの背中へ手を伸ばした。
すると、突然エイダが俺の手を掴んだ。
「うわ! なんだよ、エイダ!?」
「余計なことはしなくていいの、パメラはあなたより年上なのよ」
「だからって、このまま何もしないっていうのも気が引けるじゃないか」
「もう! パメラはあなたより年上なのよ? 年下のあなたが変なことしたら、機嫌を損ねちゃうわ」
「そ、そうなのか」
エイダの言葉に俺はどことなく納得がいかない。パメラはそこまでプライドが高い女性なのだろうか。
「それよりさ、ここに来た目的忘れたわけじゃないでしょ?」
今度は無理矢理話題を変えてきた。
「あぁ、忘れてないよ。ジョージを探すんだったよね。あとケツァルコアトルの討伐か……」
「そうそう! 確か中央広場付近に出るって話よね。一体この建物からどのくらい距離があるのかしら?」
「確か南に100メートルほど行けば着けるはずだよ」
俺は前世の知識を頼りに思わず口走ってしまった。その言葉にエイダが反応する。
「あなた、何度かここに来たことあるの?」
「え? あぁ、その……数年前くらいだよ。ほら、俺はこの島の当主ヒューリック家の長男だから」
「ふぅん、そう……」
適当に誤魔化したが、エイダが納得しているように見えない。変な目で俺を見下ろした。
「な、なんだよ……その目は?」
「古代遺跡に出現するモンスターは強敵揃いよ。アリゲーターベアと同じく五つ星ランクのモンスターが出現してもおかしくないわ。そんな危険な場所に訪れてよく平気だったわね」
かなり痛いところを突いてきた。俺自身もとっさに思いついた嘘だから、さすがに誤魔化すのは難しいか。
「い、いや……ほら、トマスが一緒だったからさ。彼はランクSの戦士で……」
「あぁ、そうだったわね。素敵な用心棒が一緒で心強いこと」
エイダもなんとなく納得してくれたみたいだ。まだ若干不満がありそうな気配がするけど。
「あれ? トマスのことって……話したか?」
俺はふと疑問に思った。気づけば俺がエイダの前でトマスのことを話すのは、初めてな気がする。彼がランクSの戦士だと話しても、エイダの反応はそれをあたかも知っていたようだった。
いや、話してないぞ。昨日エイダに会って、俺は一度も実家の執事のトマス・ゴールドスミスについて話していない。
さっきだってそうだ。俺のステータスのことを知っていたような様子だった。でもステータスは〈アプレイザル〉で覗けるが、記憶だけは覗けないはず。
ますますエイダのことが怪しい。ここは思い切って聞いてみるか。
「エイダ、一つ聞いていいかな? トマスのことなんだけど、いつ……」
その時だ。
ドォオオオオオオオン!!
何か巨大な物体が落下したような轟音が鳴り響いた。建物内も大きく揺れた。
「なに? 今の音は!?」
「何かが落下したのか? まさか、奴か?」
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