第七十二話 エイダに何もかも覗かれちゃう!?
エイダの口からトマスのフルネームが飛び出した。
「知っているのか、トマスのこと?」
「知っているもなにも……トマス・ゴールドスミスといえば、ランクSの戦士でしょ!?」
「あぁ、そうだね。でも、“元”かな。もう引退しているから」
トマス・ゴールドスミス、その名前は戦士の間では有名だ。
エイダも言ったように、トマスは元ランクSの戦士として、世界各地を旅し凶悪なモンスターをこれでもかと討伐してきた。
俺の父は歴代当主の中でも、ランクBという落ちこぼれ戦士の烙印を押された。このままでは、代々受け継いだ当主としての支配権を自分の代で失ってしまう。
それを危惧した俺の父が、その実力を買って雇ったのがトマスだ。元々交流もあったこともあり、トマスは快く俺の実家で用心棒として働くことを受け入れてくれた。
「こんな凄腕のベテラン戦士が、あなたの実家にいたなんてね。道理でいろいろ詳しいはずだわ」
「いやぁ、そうだね。トマスにはいろいろ教えてもらったよ」
もちろん嘘八百である。トマスが俺に教えたことといえば、簡単な剣術や貴族としての礼儀や作法くらい。しかしトマス以上に家庭教師としてふさわしい役もいないから、これで誤魔化そう。
「……でも、噓でしょ?」
「あぁ、そうだね。トマスは俺の家庭教師なんかじゃ……って、えぇ!?」
「やっぱりね、そうだと思ったわ」
エイダから意外な言葉が飛び出した。なんと俺の嘘を見抜いていた。どういうことだ。
「いや……その、なんというか。エイダも人が悪いな、俺が嘘つきだなんて。トマスは間違いなく元ランクSの戦士だよ」
「トマスさんのことじゃないわ。この人が間違いなくトマス・ゴールドスミスっていうのは私もわかる。でも、問題なのはあなた。あなたのこれまでの記憶、さっき少し覗かせてもらったわ」
「え? これまでの記憶……だって?」
エイダがとんでもない言葉を言い出した。俺のこれまでの記憶を覗いただと。
「ふふ、信じられないでしょうけど、ここはあなたの夢の中よ」
「俺の夢の中? まさか……」
夢の中か。だけどそう考えたら納得だ。さっきまで宿にいたのに、突然俺の実家にワープするだなんてありえないからな。いくらエイダでも瞬間転移魔法はできないだろう。
「そうか、夢の中か。だったら悪いけど寝かせてくれよ、今日はもう疲れたんだ」
「うふふ、何言ってんの? 夢の中なんだから、現実のあなたはもう寝てるの」
「いや、それはわかるけど、なんか夢の中なのにエイダと普通に話していると、寝ているって感じが全然しないんだよね」
「気持ちはわかるわ。でもせっかくあなたの夢の中に入りこめたんだもの、もっといろいろお話しましょ」
エイダが俺に近づいた。笑みを浮かべて、座っている俺をじっと見下ろす。なんだかドキドキしてきた。
これは、ちょっと危ない雰囲気かもしれない。
「え、エイダ……あの、俺はそんな……」
「あはは、あなた勘違いしているのね。確かにあなたにある魔法を仕掛けたんだけど、別に卑猥なことなんかするつもりはないわよ」
「じゃあ、一体どういうつもりだ?」
「そうね。だけどその前に種明かししましょ、私は偶然あなたの夢の中に入り込めたんじゃないの。意図的に入ったのよ」
「意図的に……だって?」
エイダが意味不明なことを言い出した。俺の夢の中にエイダが出てきた。これが偶然じゃないというのか。
「馬鹿な? いくら君が魔道士でも、そんなこと……」
「できないとでも言いたいの? これを見ても同じこと言えるかしら?」
エイダは笑いながら右手を前に出した。その右手に何やら光る長い紐を掴んでいる。
「なんだよ、そのロープは?」
「よく見て」
俺はそのロープを目で追った。かなり長いがよく見ると、俺の体の部分まで到達した。なんと、俺の体の腰の部分にいつの間にか巻き付いていた。
「お、俺の体にロープが!? いつの間に?」
「ふふふ、やっと気づいたのね。まぁ私がわざと見えるようにしたんだけど、さすがのあなたも私が独自に完成させた魔法だけは予想外よね」
「君が完成させた? 嘘だろ?」
エイダから信じられない言葉が飛び出した。
「嘘じゃないわ。私が一年かけて研究して編み出したオリジナル魔法よ。名付けて〈コネクティングロープ〉、このロープで繋がれれば、その人間の夢の中に自由に入り込めるわ」
〈コネクティングロープ〉、初めて聞く名前だ。前世でも聞いたことない、というか〈ロード・オブ・フロンティア〉でそんな魔法なんか存在しないはず。
まぁ俺も〈ロード・オブ・フロンティア〉の世界観や全ての魔法を、完全に網羅しているわけじゃないからな。俺が知らない魔法がいくつかあっても不思議じゃないが、それにしてもまさかエイダ独自の魔法があるだなんて。
エイダなんて前世で〈ロード・オブ・フロンティア〉をプレイしていた時なんて、脇役もいいところだったのに。
「その……なんだ〈コネクティングロープ〉だっけ。確かに俺も気づかなかったけど、そのロープを他人の体に結び付けたら、その人の夢の中に入り込めちゃうってわけか。すごいな」
「何言ってんの? 確かに夢の中に入り込めちゃうけど、それだけじゃない。その人の記憶までわかっちゃうの」
「まさか……そんな」
「嘘じゃないわ、さっきも言ったけど少しだけあなたのこれまでの記憶を覗いたわ。トマスさんがあなたにじっくり家庭教師として教え込んでいた場面なんて、どこにもなかった」
俺はゾッとした。記憶がわかってしまう。これはまずい。なぜなら、俺は確かにロバート・ヒューリックだけど、中身は徳川光明、元日本人だ。
これ以上覗かれたら、この世界の人間に俺が異世界からの人間だってわかってしまう。いくら仲間とは言え秘密にしておきたかった事実なのに。
「やめてくれ! これ以上は覗かないでくれ!」
「あら? どうしてそんなに焦るのかしら? その様子だと、ますます覗きたくなっちゃったわ」
「くっ! こうなったら仕方ない」
俺は椅子から立ち上がり、全力で部屋の窓に向かった。とにかくエイダから離れるしかない。だけどその時、急に金縛りにあい動かなくなった。
「なんだ!? これは金縛り? そんな……」
「言ったでしょ? ここはあなたの夢の中よ」
金縛りにあった俺の体は自由がきかなくなり宙に浮いてしまった。そしてそのまま俺の体は振り返り、エイダと向き合った。
「そして、この夢の中は今私が制御しているの。つまりあなたの体だって、思いのままに動かせるのよ」
「そ、そんな……」
「おとなしく、ベッドに横になりなさい」
俺はどうすることもできなかった。成す術もなく、俺の体はそのままベッドに押し付けられ、仰向けに寝かされた。
現実世界じゃこんな魔法なんか俺に効かないだろう。だけどここは俺の夢の中だ。夢の中じゃどうしようもない、〈ロード・オブ・フロンティア〉では夢の中で戦うことなんてないんだから。
いや、違う。俺は大事なことを見落としていた気がする。夢の中で戦闘することは、確かあったはずだ。
今俺の体はエイダに完全に操られている。夢の中でも、自分の体を現実世界と同様、というか現実世界と同じステータスで戦えるようになるには、ある条件が必要だった。
でもその条件を俺は今満たしていない、それだけの話だ。
「あはは! それじゃ、たっぷりと堪能させてもらうわ、あなたの記憶、その全てをね!」
もうどうにでもなれ。俺は目を瞑った。それから俺の記憶は途絶えた。
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