第六十七話 カルロスの言い訳
カルロスは何も言い返せなかった。そしてついに決心した。
「……ロバート・ヒューリック、貴族の少年だ」
「ロバート・ヒューリック? あのヒューリック家の長男か? そういえば今年で十三歳になると聞いたが、そうか晴れて戦士になったのか」
「あの野郎、どんなイカサマを使ったか知らねぇが、アリゲーターベアも倒したらしい」
「アリゲーターベアだと? 五つ星ランクじゃないか、まだ子供だというのに」
「俺だって信じられねぇよ。絶対イカサマに決まってる、今度会ったらただじゃ……」
「ん? ロバートと戦ったことあるのか?」
カルロスはうっかり口が滑った。
「う……いや……その、今のは聞かなかったことにしてくれ。それより今は食事だ、食事!」
有耶無耶にしようとしたカルロスを見てバティスタも確信する。実は知っていた、昨日のギルドの適性検査の噂を。
(あの噂本当だったのか、昨日の適性検査で子供に負けたって話。手加減していただけだと思ったが、今の口ぶりからして恐らく完敗だったんだろうな)
しかしバティスタもこれ以上詮索するのはやめることにした。カルロスはプライドが高い、これ以上突っ込めば余計怒り出すだろう。
そうこうするうちに彼らが泊まる宿に戻った。
「ふぅ、それにしてもパメラは一泊金貨一枚か。俺達は銀貨五枚だってのに」
軽く愚痴をこぼすバティスタだったが、カルロスは頭を掻きつつ、無言のまま一階の食堂へ向かった。バティスタも彼に続いた。
「あぁ、カルロスさん。それにバティスタさん、待ってましたよ!」
二人が食堂に入ろうとしたとき、宿のスタッフが二人に話しかけてきた。
「何か用か? 今は腹が減っているから、用があるならあとにしろ」
「いえ、実は大事なお客さんが来ていて、その……」
「よう、カルロス。それにバティスタ。無事に戻ってきたんだな」
食堂から出てきたのは、帽子を被った背の高い中年男性だ。二人がよく知っている男だ。
「ジョニーさん? なんでこんな場所に?」
「二人がこの宿に泊まっているという話を聞いてね。実は大事な話があるから、今から話がしたいんだが……」
「そうですか。だけどジョニーさん、さっきも言ったが俺達は腹が減ってて……」
「それなら気にするな、食事しながらでもいい。俺が飯代を驕ってやるよ」
ギルドマスターがなんと食事を驕ってやると言っている。二人からしたら断わる理由はない。
「ジョニーさんがそこまで言うならわかったよ。バティスタも文句ないな」
バティスタも頷いた。
「よし。それじゃとにかくテーブルに座ろうか、とっておきのメニューを用意したんだ。例の化け物を退治してくれたんだからな、今日は大奮発だ!」
ジョニーが指をパチンと鳴らして、スタッフに食事を用意させた。だがカルロスもバティスタも、今ジョニーが言った言葉に反応せざるを得なかった。
「……おい、カルロス」
「わかっている。なんとか誤魔化すさ」
「どうしたんだ、浮かない顔をして?」
ジョニーが振り向いて質問した。
「い、いや……なんでも」
「そういえば、今気づいたがパメラとエイダはどうした? あの二人も一緒だったんじゃないのか?」
二人ともハッとした。本来いなければいけない二人がこの場にいない。
「まさか、二人抜きでアナコンダを倒したというのか?」
「それは……」
二人とも返答に困った。だがカルロスは笑った。
「……いやぁ、実はですね。取り逃しちまったんですよ」
「なに? っていうことは、倒していないのか?」
カルロスの言い分は続いた。バティスタも今はカルロスに任せようと判断し、何も言わなかった。
「正確にはもう少しで倒せそうだったんですよ。俺達四人にかかれば、あんな化け物もちょちょいのちょい。しかし意外と素早い奴でしてね、あと一歩のところで逃げられちまいました。
もちろん俺達も後を追ったんですが、なんとすでに誰かが倒しちまったようなんです。コアも奪われちまいましたね、どこの馬の骨だか知りませんが、おいしいところだけ持っていかれましたね。全く運のいい野郎だ」
カルロスは説明を終わった。バティスタの方を見た。彼も頷くしかなかった。
「……そうです。まぁ、実質俺達が倒したようなもんですがね……はは」
「なるほど。しかし倒したのが誰であれ、奴が倒されたという報告はすでに耳に入っている。ともすれば、この町にも被害が出かねなかったから、君達には感謝している」
「いえいえ、とんでもないことです。どんな強敵が出てきたって、俺達がいれば安心ですよ。いつでも頼りにしてください」
「わかった。だけど、それじゃ倒したのはどこの誰なんだ? あとパメラとエイダがここにいないのはどうしてだ?」
ジョニーの疑問は終わらなかった。さすがのカルロスも、その疑問には即答できない。
「私が知っていますよ、ギルドマスター」
突然女性の声が響き渡った。カルロスとバティスタの二人が振り向くと、そこにはつば広の帽子を目深に被った貴婦人が立っていた。
「な、なんだ? あんた何者だ?」
「おっと、これは失礼。カルロス、このお方は私の大事な客人でね。かのキシア帝国から来られた上流貴族でいらっしゃる。そそうのないようにな」
「上流貴族!? まさか……」
貴婦人は両手で丈の長いスカートの裾を軽く持ち上げて、お辞儀をした。
「お初にお目にかかります。私の名前はアメリア・フォン・ローザンヌ、以後お見知りおきを」
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