第六十三話 リーダーの奥の手
リーダーは反論する気もなかった。その少年の正体が一番気がかりだった。
「その小僧の特徴は? どんな外見をしてた? 持っていた武器はなんだ?」
「さっきも言ったっすけど、貴族っぽい奴です。身長からして間違いなく子供っす。髪は黒色で、武器は剣でした。でも見たことない剣でしたね」
「貴族の子供、黒髪、見たことない剣……間違いねぇ!」
リーダーは確信した。
「やっぱりロバート・ヒューリックだな。昨日会ったが、今言った特徴が全て一致している」
「兄貴、となったら……」
「おうよ、こうなったら是が非でもアナコンダのコアを奪うまでさ!」
「でも、肝心の〈昏睡の壺〉はもうないっすよ。それに強力な仲間もいるっす。勝ち目あるっすか?」
リーダーは笑みを浮かべて答えた。
「心配するな。こんなこともあろうかと思って、まだ罠を残してある」
「え、どんな罠っすか?」
チャリン!
部屋の外で鈴の音が鳴った。
「鈴の音? ってことは……」
「誰かが近づいてきた。つけられたな」
リーダーは報告に来た男を睨みながら言った。
「す、すみません! あせってたもんで……」
「まぁいい。お仕置きはあとだ。それより侵入者が誰か、早く確認してこい」
「はい、わかりました」
「もしロバートだったら、例の部屋へ案内しろ」
「あの空き部屋っすか? あんな部屋におびき寄せて一体……?」
「ふふ、とっておきの罠を仕掛けてあるんだ。絶対に逃れられない恐怖の罠がな」
ようやく鍾乳洞の奥にたどり着けた。エイダからもらった〈蛍光鳥〉のおかげで、明かりには困らなかった。
だけど俺はドジを踏んでしまったようだ。どうやら、ここは連中のアジトみたいだ。そのアジトの入口のドアを開けた瞬間、罠に掛かってしまった。
といっても、大した罠じゃない。あくまで侵入者が来たことを知らせるための罠だ。床に細いロープが引っ張って、それに足が引っかかると鈴が鳴る、古典的な罠だ。
こればかりは、状態異常に関係しないから防ぐ手段はない。意外と用意周到な奴らだな、まぁどんな罠がかかっていようと今の俺は怖くないんだけど。
ドアを開けてしばらくは一本道の通路が続いている。突き当りを曲がると、再びドアが目の前にあった。
「入ったものの、誰もいないな。まさかもう逃げたのか?」
広さにして、俺が前世で暮らした一人暮らしの1Kの間取りくらいの部屋だな。こざっぱりとしていて、テーブルや椅子、あとは恐らくどこからか盗んだ大量の物品が床に置かれていた。
さっきまで誰かが飲んでいたのか、飲みかけのコップがテーブルの上に数個置かれている。その内の一つはまだ暖かい。つまりついさっきまで誰かいた証拠だ。
だけどコップの中に入っていた飲み物を見て、俺はハッとした。
「この飲み物黒いな。まさか……?」
一口だけ飲んでみた。苦い味がする。間違いない、俺が前世で何度も飲んだコーヒーの味だ。
午前に商人のジョージのショップで話した内容を思い出した。コーヒーはこの世界では黒曜水と呼ばれている。
その証拠に、テーブルの上には袋に入った大量のコーヒー豆も置かれていた。
「黒曜豆がこんなにたくさん。まさか盗んだのか? あいつら……」
ガコォオオオオオン!!
何かが激しくぶつかる音がした。と思ったら、俺の足元の周囲に岩の破片が落ちてきた。
「なんだ? これは岩か?」
今度は床に大きな岩が落下した。見ると、ぶつかった箇所が見事に粉砕され、いびつな形になっていた。
これはもしや。そう思い、後ろを振り向いた。案の定、男が一人立っていた。
「う、嘘だろ? なんで……?」
「ひどい挨拶だな。ここのアジトは初対面のお客の頭に岩をぶつけるのが礼儀なのかい?」
男は動揺している。無理もない、俺の防御が規格外の数値だから、岩をぶつける程度じゃビクともしない。逆に岩が粉砕されるだけだ。
「くそ! こうなったら!」
男は床に何かを投げつけた。直後、俺の目の前に濁った色の靄がかかった。
「まさか〈昏睡の壺〉?」
違った。靄の色は濁っているが、よく見たら黄土色をしている。これは〈煙玉〉だ。敵との戦闘時に確実に逃げる手段として使われるアイテムだ。
やはりこれも状態異常とは関係ない。自分の姿をくらまし、その間に確実に逃げるための時間稼ぎをするためのものだ。
男の姿が見えなくなった。〈煙玉〉の効果は十秒程度で切れる、多分男は今逃げている最中だ。
となれば、確実に追いつけるようにしないといけない。ここはステータスの素早さの項目を上げておこう。
だけどその必要はなかった。
バタン!
ドアが開く音が聞こえた。そして〈煙玉〉の靄も消えた。見ると壁にあった二つのドアの内、左のドアが開いていた。
「逃がすものか!」
俺も後に続いた。左のドアの先はまた廊下が続いていて、曲がり角を曲がると再びドアがあった。
「いや、待て。もしかして罠か?」
その可能性もあった。さっきのドアをわざわざ開けっ放しにして逃げたところを見ると、俺はこの部屋に誘い込まれているかも。
だけど深く考えても仕方ない。今はノーラの父さんを助けることが最優先だ。俺はドアを勢いよく開けた。
「出てこい、悪党ども! って、あれ?」
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