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第六話 ロバート旅立ちの日

 翌日、俺は荷物をまとめ玄関の前に立った。トマスと母の二人が俺を見送るため、玄関の前に立っていた。父と弟はいなかった。


「母上、今までお世話になりました。それとトマス、父上と弟を恨まないでくれよ。むしろ弟を立派な戦士へと育ててくれ。仮にも先輩冒険者なんだからな」

「はい、わかっております。お坊ちゃま」

「ロバート、ちょっと待って。渡すものが……」

「渡すもの?」


 そう言うと母はポケットの中へ入れていた小袋を取り出し、俺へ渡した。中身を見て俺は驚いた。なんと100ゴールドの金貨が何十枚近くも入っている。


「少ないけれど、これで何とか生き延びてね……」

「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」


 俺は母にお辞儀をし、金貨が入った袋をショルダーバッグの中へ入れた。


「お父様はあんな風に言っていたけど、辛くなったらいつでも帰ってきていいんだからね。私は大歓迎よ」

「ありがとうございます。ですが、俺自身もちょうどこの世界を自由に見て回りたいという気持ちがあったから、いい機会です。世界中を旅して帰ってきます」

「ぼっちゃま、実はわたくしからも渡したいものがございます」


 さらにトマスも袋を取り出した。かなり大きめの袋だが、中身は回復薬(小)が10個も入っていた。


 するとまた例の音とともに、俺の目の前に四角形の枠が表示された。二つの枠が順番に表示され、それぞれ『5000ゴールドを獲得しました。』と『「回復薬(小)×10」を獲得しました。』と表示されていた。


 資金とアイテムをもらうというイベントも心当たりがある。実は貴族のキャラクター専用のイベントなのだ。平民や奴隷などと違い、開始直後から比較的イージーモードでプレイできる。


 だが正直俺にとって、この餞別はどうでもいいのだ。もちろんないよりあったほうがマシだが、俺にとって最も大事なアイテムをもらうイベントがもうすぐ訪れる。


「これだけあれば十分だ。トマス、母上、本当にありがとう」

「坊ちゃま、一つ聞いてよろしいでしょうか?」


 トマスが不思議そうな顔で質問してきた。


「なんだい、トマス?」

「実はその……私の気のせいならよろしいのですが、これまで何度も私は〈開花の儀〉を見てきましたが、坊ちゃまはその他の戦士と違ってその……」


 トマスのこの口ぶりからして、大きな違いに気付いているようだ。


「なんというか、炎の色が青色だったのです。今まで私は青色の炎など見たこともありませんし、聞いたこともありません。あれは一体?」

「あぁ、なんだそのことか……」

「坊ちゃま、まさか何かご存じなので?」

「うーん、なんというかその……」


 俺は返答に困った。まさかトマスがここまで洞察力が高いとは思わなかった。父などは色なんか気にもとめず、数ばかりを気にしていたというのに。


 だがここで変に誤魔化したってしょうがない。


「それは、俺にもわかんないよ。むしろ俺の方が聞きたいくらいさ」

「そう……ですか」

「私なら聞いたことがあるわ。それ……もしかしたらね」

「へ? 母上、何かご存じで……」


 突然母が妙なことを言い出した。一体何を知っているというんだ。


「私が子供の頃に読んだ古い本の中に出て来たわ。伝説の勇者が活躍したという隠れた神話なんだけどね……その勇者が青い炎を与えられたんですって!」

「ほう、それは興味深いですな。一体何という題名の本で……?」

「うーん、題名までは覚えてないけど、その勇者の名前だけは覚えてるわ」

「勇者の名前ですか?」

「確か、“ミツアキ”って名前だと思うわ」

「ミツアキ、ですか」


 ミツアキ。その言葉を聞いて、俺は固まった。俺もその名前は知っている。いや知らないどころじゃない。


「ロバート、一体どうしたの?」

「え? あぁ、いや。なんでもないよ、なんというかその……変わった名前だなって……」

「全くですな。しかし坊ちゃまがその伝説の勇者の再来かもしれないと考えると、わたくしもワクワクしてきます」

「そうね。ロバート、私は信じてるわ。だから絶対諦めないでね!」

「え、えぇ。ありがとうございます!」


 ロバートと母の激励の言葉に俺は取り敢えず礼だけを述べた。とんでもないことを聞いて、俺も完全に動揺している。


 ミツアキと言う名前はほかでもない、俺が前世で〈ロード・オブ・フロンティア〉をプレイしていた時に用いていたハンドルネームだ。本名は徳永光明、下の名前をそのまま使っていたんだ。まさかこの世界に、俺のハンドルネームがそのような形で伝えられているとは思わなかった。


 目の前にいるロバートに当の本人が転生してきただなんて、二人とも知る由もないだろう。


 すると屋敷の二階の東の部屋の窓が開いた。窓から顔を出したのは、弟のザックスだった。


「じゃあな、ザックス! 元気で暮らせよ。立派な当主になれよ!」


 弟は俺の挨拶にも無言で手を振るだけだった。


「もう、あの子ったら……」

「はは、いいさ。じゃあ、そろそろおいとまするか」

「あの……お父様に挨拶は……?」

「さっきもう済ましたよ。そしたらこう言われた。『わかったからさっさと支度して出ていけ、二度と顔を見せるな!』って」

「そうですか」

「では行ってまいります。創造神プロビデンス様のご加護があらんことを」


 母とトマスに深々と頭を下げ、別れの挨拶を言った。こうして晴れて自由の身となった俺の第二の人生が、ここに幕を開けた。

第六話ご覧いただきありがとうございます。次回からいよいよロバートの一人旅、隠しイベントで秘密の武器を入手します。


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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい!他の小説と間違えて投稿しました。
[気になる点] 主人公はゲーム感覚でウキウキだろうけど母親はクソ辛いよね。 下手したら自殺してるレベルでは? 何せ周りからは無能を産んだと思われるし 弟が優秀でも長男が無能は貴族に取って相当不名誉にな…
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