第五十九話 襲い掛かる睡魔
パメラがふと声をかけた。もしかして俺の様子が気になったのか。
「いや……なんというかさ。おかしいなって……」
「おかしい? なにが?」
俺はノーラ達に聞こえないよう、小声で話した。
「だってさ、こんな場所にあんな適当な大きさの岩がゴロゴロ転がっているって怪しくないか?」
「怪しい? うぅん、私も鍾乳洞の内部の構造に詳しくないから何とも言えないけど、確かにちょっとご都合感があるなって気はするわ」
「あともう一つ、あるんだよね」
「もう一つ? 何よそれ?」
「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」
俺が抱いていた違和感についてパメラに話そうとしたが、さすがにそれだけは理解はしてもらえないだろうと思った。
実は俺はこの鍾乳洞を知っている。もちろんこれも前世の知識だけど。
ソーニャの町の南の鍾乳洞は、手頃なレベル上げの場所として有名だ。内部の構造も広いし、出てくるモンスターのレベルは深く潜るにつれどんどん強くなっていく。
俺もここの鍾乳洞でよくレベル上げをしていたから、内部の構造は比較的覚えている。だけど、こんな場所でこんな岩場があるだなんて、覚えがない。
まるで誰かが意図的に作り出したような感じがする。一体誰が何のために。
「パメラ、ロバート。二人も座ったらどう?」
エイダはとっくに座っていた。もしかしたら一番休憩したかったのは、エイダかもしれない。
「エイダはかなりMPを減らしているわ。魔力回復薬も限られているし、今後も強いモンスターが出てくるかもしれないから、ここは休憩しましょう」
パメラの言うことも一理ある。エイダも疲労にはかなわないようだ。仕方ないから、俺も休憩するか。
「あの……ロバートさん。ちょっといいですか?」
突然ノーラが話しかけてきた。
「なんだい、ノーラ?」
「その、アナコンダのコアなんですけど、もう一度見せてもらえないでしょうか?」
「アナコンダのコア? 別にいいけど、一体どうして?」
「さっきチラッと見たときに、私なりに気になった箇所があったんです。だからもう一度見たいんですけど」
「気になった箇所? わかった、ちょっと待ってて」
ノーラの言っていることが気にかかるが、俺はアイテムボックスを開き、アナコンダのコアを両手で掴んだ。相変わらずの大きさと重さだ。取り出すだけで一苦労だな。
「あら、アナコンダのコアね?」
「ふふ、いつ見てもすごい大きさね」
「ノーラ、これでいいかい? それで、気になった箇所ってのは?」
俺はノーラの顔を見た。ノーラはコアをじっと見つめる。
「そうですね。これは……」
ドサッ!
何かが倒れるような音がした。よく見ると、後ろで岩場に腰かけていたエディがうつ伏せになって、倒れていた。
「エディ、どうしたんだ!?」
俺はエディのそばへ駆けつけた。なんとエディが眠ってしまったようだ。
いや、これは眠っているというのか。そんなに疲れていたのだろうか。だけどこんなタイミングで爆睡されても困る。
バサッ!
また同じような音がした。今度はエイダがエディと同じように倒れこんだ。彼女も眠ってしまったのか。
「エイダまで……あれ、パメラ?」
エイダだけじゃなかった。なんと今度は横に座っていたパメラまで倒れこんだ。おいおい、彼女まで疲れ切っていたのか。
すると次の瞬間、また誰かが地面に倒れる音がした。
「……まさか」
振り向くとノーラも地面に倒れていた。やはり眠り込んでしまったようだ。
四人とも一斉に眠ってしまった。明らかにおかしい。俺は周囲を注意深く観察した。
すると俺の予感は的中した。よく見たら、白い靄のようなものが俺達の周囲を包み込んでいた。
「なんだ、この靄は?」
こんな靄はさっきまでなかった。気づいたら、遠くが全然見えない。だけどこの靄がどうやら四人とも眠ってしまった原因になっているな。
でも俺だけは起きたままだ。どうしてだろう。
「そうか、この靄の正体は!」
俺には予想がついていた。靄が出現し一斉に眠りだす。この現象はあるアイテムによって引き出されているはず。そう思って俺は周囲の地面を注意深く見まわした。
「あった、この壺か!」
見つけたのは小さな壺だ。上部の口から靄が噴出している。間違いない。
すると次の瞬間、遠くから男達の声が近づいてきた。この壺を仕掛けた犯人達か、とっちめてやろう。
「うまくいったな!」
「〈昏睡の壺〉、兄貴の言った通り凄い効果だ。あいつら全員眠りこけたみたいだぜ」
「へへ、なにがランクAだよ。拍子抜けするぜ、あっさり罠にかかるだなんてよ」
ロバート達がいる岩場のはるか後ろの物陰から眺めていた男達は、仕掛けた罠が発動したのを確認した。
「お前ら、ちゃんとマスク被っていろよ」
「それにしてもあのお嬢ちゃんやってくれるぜ。ご丁寧にあの貴族からアナコンダのコアまで、引っ張り出させてくれるとはな」
「だけどよ、あの貴族の坊主。どこからアナコンダのコア取り出したんだ? 見たところ大きなカバンも持ってねぇようだし」
「そんなこと知るかよ。それよりもう見えなくなったが、アナコンダのコアの位置は掴めたな?」
「バッチリさ。余計なことはせずに、コアだけを奪ってさっさとずらかればいいんだろ?」
「その通りだ。よし、それじゃ行くぞ!」
男達は満を持して歩き出した。男達は、口元を覆ったマスクを片手でしっかり押さえながら歩いた。
「このあたりか。お前ら止まれ!」
しばらく歩き、先頭の男が足を止めた。剣を鞘から抜き、アナコンダが置いてあるであろう場所あたりを剣で上下左右に振る。
カツン!
剣の刃先が何かに当たった。男がしゃがんで確認する。
「あった、これだな!」
「やりましたね!」
「あぁ、だがこれからだ。思った以上にでかい、それに重い。お前らも手伝え。落として大きな音でもしたら、全員起きてしまう」
「心配ないよ。俺がもう起きているから」
「あぁ、そうか。それなら心配……なに!?」
しゃがんだ男の目の前に突然貴族の少年が現れた。そして靄に覆われていたはずが、いつの間にか靄の量が薄くなっていた。
「〈昏睡の壺〉を使って罠を仕掛けるだなんて、ずいぶん姑息なことをしてくれるね。まぁ、俺には効かないけれど」
「て、てめぇ! 一体なんで!?」
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