第五十四話 俺のステータスは指数関数的に増加する!
テストプレイヤー時代の回想です。
第九話のレベルアップとステータスの相関の話も絡んできます。
「徳永君、例の裏技の件だけど、完成したって本当?」
「バッチリですよ。どうぞ見て下さい」
〈ロード・オブ・フロンティア〉のデバッグ業務の傍ら、俺は会社の別室にて一人別の作業にいそしんでいた。
デバッグチームのリーダー佐藤さんから依頼された裏技、それはすなわちキャラクターの成長速度とステータスを、大幅に強化させるという内容だ。
ゲームの開発環境においてデバッグ作業は必須だ。どんなゲームでもそうだが、ゲーム内で実装されているありとあらゆるデータが、正常に反映されているかのチェックが必要だ。
例えばあるモンスターを倒してアイテムをドロップするか、そのドロップアイテムの内容は正常か、ストーリーの進行途中ではまって進まなくなる箇所はないか、特定のダンジョンでモンスターは正常に出現するか、特定の箇所に行ってイベントは発生するか、そのイベントは正常にクリアできるか、スキルや魔法は全て使用できるか、魔法を使用した時の効果や消費MPの量は正常か、などなど。
ほかにもチェックしなければいけない項目は山ほどあるが、どれか一つの項目でも不具合や正常に動作しないとき、それはバグとなる。
ゲームにおいてバグの存在は致命的だ。バグが大量にあるゲームなんて、誰もやりたがらないし買わない。だからそのバグを販売前にチェックし、修正するデバッグ作業が必要となるのだ。
そのデバッグ作業は単純で、実際にゲームをプレイして、該当の項目を一つずつプレイしながらチェックするだけだ。
やってみたらこれが意外と作業要素が強く、つまらないと言い出す人もいるくらいだ。
それにゲームのプレイ自体の難易度が高いと、それだけで作業が進まないこともある。例えばあるモンスターのドロップアイテムをチェックしたいのに、そのモンスターが倒せないとなったら話にならない。あるいは倒せても時間がかかる場合もあるが、それも非効率だ。
そこで考えられたのが、キャラクターを超強化する裏技だ。俗にいう“チートコマンド”と呼ばれる。俺がそのチートコマンドの開発というか、アイデアを出した。
この裏技のすごい点は特殊なコードとか何も使わないことにある。ゲーム内で合法的に、ある操作をするだけで実現できてしまうんだ。
俺がその内容と手順を一から説明した。佐藤さんは目の色を変えた。
「すごいな、その発想はなかったよ。それじゃ早速試してくれ」
俺は佐藤さんに言われるがまま、一からその手順を試した。
試したのはオープニング直後のイベント、一昨日俺が〈開花の儀〉で実際に行った一連の行動だ。
中庭の始祖の銅像に七秒間お辞儀、噴水の周りを七周、所持金を700ゴールドに調整、所持アイテムの並び替え。
この一連の行動を行うことで、後の〈開花の儀〉で出現する炎の数が二つになり炎の色も青色になる。そしてレベルアップ時の割り振り値は、俺が考えたある別の数式に従って増える。
もちろん俺が考えた。今後よほど熱心な廃人プレイヤーでも出てこない限りは、絶対暴かれないだろう。
〈開花の儀〉を終えると、いよいよ冒険が始まる。フィールド上にいるモンスターを倒していくとレベルが上がるが、最初の内は普通の成長と変わらない。
だけどレベル3に上げて得られた割り振り値を見て、佐藤さんは異変に気付いた。
「あれ? 割り振り値が4? 2のはずじゃ……」
「はい。計算式のコード部分を少しだけ改変しました」
「改変? 徳永君はプログラムの知識もあるのかい?」
「えぇ、少しだけ。そこで僕が考えた割り振り値の法則ですけど……」
俺はテーブルに置いてあった紙に数式をマジックペンで書いた。
「これです。この数式に従います」
「これは……Y=2X? これじゃ今までと変わらないじゃないか?」
「いやいやよく見て佐藤さん! Xのところ!」
「X? そういえば右上に小さくっついているが、何か意味があるのか?」
「そうです。この数式はY=2Xじゃないんです!」
佐藤さんはますます混乱した顔になった。
「Y=2Xじゃないって? じゃあ一体どんな式なんだ?」
「佐藤さん、こんな話聞いたことないですか? 紙を42回折ったら月まで届くって話」
「はぁ? 突然何の話だ?」
俺は目の前の紙を持ち上げて説明した。
「僕が書いたこの式こそ答えですよ。いいですか、この紙の薄さを0.1mmだとすると、一回折れば厚さは二倍、もう一回折ればさらにその二倍、そしてさらにもう一回折ればその二倍。
これをずっと繰り返していくんです。そうしたら……」
「待て待て! いくらなんでもそんな薄っぺらい紙を42回折り曲げても、月まで届かないだろ!?」
佐藤さんは未だに信じられないようだ。まぁ、普通はそう考える。
「確かにそう思うかもしれません。でも計算したらちゃんとそうなるんですよ。42倍じゃないんです、42回折りたたむんですから」
「一体どういう計算になるんだ? わかりやすく説明してくれ」
「わかりました。結論から言うと、2を何回掛け算するかってことです」
「2を何回掛け算するか?」
「僕が書いたこの式ですけど、これは指数関数の式になるんです」
「し、指数関数だって?」
「そうです。つまり『ワイイコールニエックス』と読むんじゃなくて、正しくは『ワイイコールニのエックスジョウ』と読みます」
第五十四話ご覧いただきありがとうございます。
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