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第五話 まさかの追放

「ロバート、炎はいくつ出たんだ!?」

「ち、父上!?」


 入ってきたのは父だ。しまった、なんというタイミングで入ってくるんだ。本来なら至聖所の中は外から見られることはないのに。


「なに? まさか、あれは……?」


 父も俺の頭上に現れた二つの炎が目に入った。そして司祭以上にその表情から生気がなくなっていった。愕然とし過ぎたのか、父はよろよろと膝から崩れ落ちた。


「ご主人様、どうなさいました!?」

「ふ、二つ……二つだけ……そんな……」

「ロバート、もう儀式は終わったの? あら、あれは……?」

「父上、落ち着いてください。俺は決して外れなんかじゃない。だから……」


 なんとか父を落胆させまいと説得しようとした。だけど俺が伸ばした手を、父は強烈な力で叩いた。


「この馬鹿者が! たった二つだと!? 一体どういうことだ!」

「ち、父上!」


 すぐに起き上がった父は、俺に向かったそれまでに見せたことのないほどの怒りを見せた。そしてその剣幕のまま、今度は司祭に詰め寄った。


「もう一度やれ! こんな結果は認めん!」

「お、恐れ入りますが、それはできません。一度付与された力は覆ることはございません、誠に申し訳ございませんがお引き取りを」

「ふ、ふざけるな! 普通の冒険者を目指すわけじゃないんだぞ! ヒューリック家の次期当主を担うのだ。ランクDでどうやって跡を継げと言うのだ!?」

「わたくしに言われましても、こればかりは創造神プロビデンス様のお決めになったこと。力を付与されたこと自体が有り難いことでございますし、炎の数まで操作するなど無理でございます。どうかご理解ください」

「あぁ、なんということだ……」


 司祭は必死に父を説得し宥めた。父もさすがに諦めたのか、再び膝から崩れ落ちた。


 しばらく俺は何も言えなかった。というか、さっき父に叩かれた手が凄く痛い。仮にも父はランクBの戦士なのだ。これが実際の戦闘だったら、間違いなく即死だったろう。


 兎にも角にもこれにて俺の〈開花の儀〉は終わった。最後は後味が悪かったが、俺はやるべきことを全てやったのだ。


 二つの炎が出現したのは、俺の計算通りだ。司祭は炎の数は操作できないと言ったが、正確にはできるんだ。


 始祖の銅像に七秒間お辞儀をし、噴水の周りを七周し、所持金を700ゴールドに調整、所持アイテムを特定の順番に並び替えれば、〈開花の儀〉にて付与される炎の数は二つになり、炎の色も青色になる。


 前世でも限られたプレイヤーのみが知る禁断の裏技だ。俺はたまたまそれを知っていたプレイヤーの一人にすぎない。一見ステータス総合値が最低の2になるから、メリットがなさそうに思えるが、大事なのは青色の炎になること。


 これが重要なフラグとなる。これにより、レベルが上がるごとに俺のステータス総合値は間違いなくカンストする。それもかなり近いうちに。


 そんなことを知らない俺の父は、儀式の結果に立ち直れないでいる。母とトマスも悲しむ気持ちを隠せない。


 だがそんな悲しみを吹き飛ばす出来事が、この後で起きることになる。




 帰路の途中、見覚えのある少年と偶然出くわした。


「あれ? ザックスか?」

「あら、ザックスじゃない。どうしてこんなところに?」

「おはよう、みんな。今日は大事な日だったんでしょ?」


 弟のザックスがどういうわけか俺達を迎えに来てくれた。今日が俺の〈開花の儀〉だってことは弟も知っていたらしい。


 俺の〈開花の儀〉の結果について聞かれ、母とトマスは浮かない顔をした。俺も正直に言おうか迷った。どうせ馬鹿にされるだろうから。いやそれだけならまだいいが、悲しまれても困る。


 だが弟の顔を見て、それまでふさぎ込んでいた父の表情が変わった。そして何を思ったのか、そのまま馬車の馭者に駆け寄った。


「急いで、サングレアル大聖堂に戻れ!」

「はぁ? もうあそこに用はないでしょう?」

「戻れと言っておるのだ、〈開花の儀〉を受けるぞ」

「え? だってお兄様の〈開花の儀〉はもう……」

「ロバートではない。もう一人いるだろうが……」

「あなた、何を言ってるの? まさか……」


 そのまさかだった。父と母がザックスの顔を見た。そういうことか。


「そんな、まだザックス殿は適齢期ではございませぬ。十三歳からでなければ……」

「あくまで適齢期だ。年齢による制限はあくまで建前、これまでにも低年齢で儀式を受けている者はいた。ならばザックスも……」

「僕はいいよ。ちょうど受けてみたいと思っていたところさ」

「よし! お前がそう言うなら異論はないな! さぁ、大聖堂に戻れ! ザックスの〈開花の儀〉の番だ」


 こうして俺達は再びサングレアル大聖堂へ戻ることとなった。まだ九歳である弟が〈開花の儀〉を受けることになるとは。


 だがこのイベントも見覚えがある。そう、前世でも貴族を選んだ際に、〈開花の儀〉にて実際に炎の数が最低の2になった時に見られるイベントだ。二つの炎が出現した瞬間リセットするプレイヤーが多いから、そもそも知らないというプレイヤーも多いが、俺はちゃんと覚えている。


 そしてこの後に弟が〈開花の儀〉受けることになるが、やはり俺の予想通りに事が運んでしまった。


「こ、九つ!? 凄い! 歴代当主でもたった一人しかいないのに!」

「おお! さすが、ザックス! 私は信じていたぞ、お前ならやってくれると!」

「悪いね、兄さん」


 やっぱりか。まぁ、わかっていたことだけど。


 弟の炎の数は九つだった。俺が最低で、弟が最高。なるほど、これならヒューリック家も安泰だな。


 だが悲しいかな、弟よ。お前は確かにランクSとして選ばれたわけだけど、色は赤色なんだ。それじゃ普通の成長しかできない。


 いずれ俺はお前をあっという間に追い越すよ、まぁ一緒に冒険はしないだろうが。


 一方そんな裏の事情など全く知る由もない父は、俺には何の興味も示さず弟を厚く抱擁する。


「ザックス、今日からお前が正式な跡継ぎだ。ランクSの戦士として、立派な次期当主へなってくれよ」


 弟の出来がよかったのは完全にフラグだったようだ。そして俺を見て薄い笑みを浮かべる。さも侮蔑しているような目つきだ。こんな性格が悪い奴だったっけ。


 そして父も俺を見た。だがもはやその表情に愛情など欠片もなかった。


「ロバート、お前など追放だ! たった二つの炎しか出せなかったランクDの男など、もはや私の息子ではない。ヒューリック家の恥さらしめ! 即刻出ていけ!」

「あなた、なんてひどいことを!」

「ご主人様、それはあまりに……」

「お前達も同情するのか? ランクDの戦士がどれだけ落ちぶれた存在か、お前達も知らぬわけではあるまい」


 父の言う通りだ。確かに炎の数が最低のランクD戦士は、レベルは上がるものの成長具合は最低なものだ。いずれ他の冒険者に大差をつけられ、底辺冒険者になり落ちぶれるというのがこの世界の常識なのだ。まさにランクこそ全ての世界。


「わかったよ、父上。どうやらこの家に俺の居場所はなさそうだね。さようなら……」

「お、お坊ちゃま!?」

「ロバート、考え直して!」

「母上、それにトマス。止めてくれてありがとう。だけどヒューリック家に泥を塗ってしまったんだ。それにザックスの方が優秀だし、ランクもSだ。きっと立派な次期当主になってくれる。俺がいなくても大丈夫さ。なぁ、ザックス?」


 俺はザックスを褒めちぎった。ザックスはまるで無関心な表情で俺を見つめ返す。


「……ありがとう」


 そっけない返事だな。まぁ何も言わないよりかはマシかも。だが不安だ。こんな性格で次期当主が務まるのかどうか。


 まぁ、俺はそんなこと気にしたってしょうがないしな。ともあれ、俺はこれにて晴れて自由の身になったわけだ。正直この家に残って次期当主への義務を背負いながら生活するなんて、窮屈過ぎておかしくなりそうだからな。


 せっかく異世界転生したんだ。俺は自由にこの世界を旅して、第二の人生を謳歌するんだ。

第五話ご覧いただきありがとうございます。


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