第四話 開花の儀
お約束のステータスオープンです。
俺達が馬車で向かったのは島の中心部にあるサングレアル大聖堂だ。この島の出身者はみなここで十三歳になれば、〈開花の儀〉をうけることになっている。
ヒューリック家の歴代当主も、ずっとこの大聖堂で儀式をうけてきた。大聖堂の壁には歴代の当主の肖像画が並んでいた。
父の肖像画も十四代目として飾られていた。だが父の肖像画だけ、それまでの当主の肖像画よりやや小さかった。
理由は父が与えられた炎の数だろう。それまで最小だったのが十代目の六つだったのだが、父はそれよりも少ない五つの炎だ。
中には九つと最大数の炎が与えられた歴代当主もいる中で、父の少なさには当時回りから冷ややかな声が上がった。父は大聖堂内では、決して自分の肖像画に目を向けなかった。やはり苦い思い出が蘇るからだろう。
「とうとう来てしまいましたね、ご主人様」
「ロバート、緊張しなくていいからね。これからあなたの第二の人生が始まるけど、母はどんな結果になってもあなたを応援しますから」
トマスと母も一緒についてきた。母は父とは対照的な態度だ。だが父は違う。自分の失敗を繰り返してほしくない、そんな思いで一杯だろう。大聖堂に向かう道中もずっと落ち着いていなかった。
「ロバート、よいな。しっかりと祈れよ。決して神様を冒涜してはいかぬ。私は当時やんちゃだった。何もかもうまくいくと自分で自分を甘やかしたのだ。そのつけがこれだ。お前は私のようになってはならん」
「わかっておりますよ、父上」
父はかなり厳格な態度だ。神様を冒涜するなとか本気で言っているのか。まさかここがゲームと同じ世界などとは、彼らは思ってもみないだろう。
父は俺に九つの炎が与えられること、つまりランクSの戦士に選ばれることを望んでいる。最低でもランクAといったところか。
もちろん俺だって、最強の戦士になりたい。その思いは共通している。
だが俺は、ほかの皆が思っているのとは少し違った手法で最強になってみせる。正直こんなこと説明したって、この世界の誰にも理解されないだろう。完全に裏技に当たるんだから。
「ロバート・ヒューリック殿、こちらへ!」
司祭の声が響いた。
「行ってまいります」
俺は父達に振り返り礼をした。そして大聖堂の奥、司祭がいる至聖所の中へ俺は入った。
至聖所の中に様々な聖器物が置かれた台があり、その台を挟んだ向かい側に司祭は立っていた。その背後には創造神プロビデンスを模した立派な銅像が立っている。司祭は恐ろしく厳格な表情で俺を見つめながら、俺を招き入れる。
俺も心なしか緊張してきた。ゲーム内で何度も経験したことはあるが、いざ自分自身で体験するとなるとハッキリ言って凄く神聖な気分になる。
「ロバート・ヒューリック殿。心の準備はできましたか?」
「はい、いつでも大丈夫でございます」
「わかりました。では創造神プロビデンス様の像の前で膝まづき、一心に祈りを捧げなさい。『我に力を授けたまえ』と。祈りが通じましたら、炎が頭上に出現しあなたを祝福いたします。その炎の数により、今後のあなたの成長の度合いが見極められることでしょう」
司祭は父がしたのと同じような説明をした。無論ここで言われなくても、十分承知している。俺が気がかりなのはその先だ。
事前に俺がやるべきことは全てやった。始祖の銅像に七秒間お辞儀をし、噴水の周りを七周し、所持金を700ゴールドに調整、所持アイテムの並び替えもした。俺の計算通りなら、もう出現する炎の数は決まっている。俺はそれだけを願い、プロビデンスの像の前に膝まづき祈りを捧げた。
すると信じられないことに、俺の頭の中に声が響いてきた。
「よく悟りましたね、さすがです」
これはまさかプロビデンスの声か。だが俺の記憶では、ゲーム内でこんなシチュエーションはなかった。ここはただ祈りを捧げ、数秒後に炎が出現し、その後ステータス画面が表示されるだけのはずだ。
一体この声の主は誰だ。俺は気になったが、ここで祈りを中断するわけにはいかない。俺は目を閉じたまま、そのまま祈り続けた。
「ロバート・ヒューリック、あなたに古より封印された究極の力と秩序を与えます。この力を以て、世界を混沌からお救いください。それではご武運を」
俺は目を閉じていたが、自分の周りを光が包んでいるのがわかった。光はすぐに消えたが、目を開けると俺の頭上になんと青い炎がくるくると回転しながら出現した。
「おぉ、こんな……」
「やった! やったぞ!」
俺は思わずガッツポーズをした。作戦通りだ。俺の予想通り出現した炎の数は二つだけだ。司祭は愕然とした表情で俺を見つめた。
「何を喜んでいらっしゃるのですか? こんなことは我が教会では前代未聞です。これまで一番少なくても三つは出ていたのに……」
司祭が愕然とするのも無理はない。ゲーム内の設定では、この教会ではこれまでに二つの炎しか出現しない戦士は出たことはない。
ブオン!
またも妙な音とともに、俺の目の前に四角の枠が出現した。それは何度も俺が前世で見た、このゲームのキャラクターのステータス画面だ。
「これが……俺のステータスか!?」
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ロバート・ヒューリック (貴族)
ランク:D
レベル:1
HP:10/10
MP:0/1
攻撃力:1
体力:1
防御:0
素早さ:0
器用さ:0
魔力:0
跳躍:0
魔法防御力:0
状態異常耐性:0
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目の前に表示されたのは俺のステータス、前世で親の顔より間違いなく見たからどことなく安心感が出た。
だが普通ならこのステータスを見たら、誰もが愕然と項垂れるだろう。HP10と攻撃力1、体力1はともかく、それ以外のステータスは軒並みゼロだ。
まぁそんな疑問はおいて、これは紛れもなく炎の数が二つだった時のステータス数値だ。二つと言うのは、HPとMPを除いた九つのステータスの総合値と一致している。つまり今の俺のステータス総合値は攻撃力の1と体力の1、合計で2となり、確かに炎の数と一致している。
三つになれば総合値が3、四つになれば総合値が4になり、最大である九つになれば総合値が9、この時全てのステータスの初期値が1になる。というのが、このゲームのステータスの初期値の仕組みだ。
本来なら炎が二つしか出現しないのは、このゲームでは大外れとなる。当然誰もが最低のステータス値なんかでプレイしたくない。普通のゲームならリセットしてやり直しだろうな。
だが俺はそれでもこの結果に満足していた。理由は炎の数ではない。数ではなく俺は色に着目した。本来なら何度やっても出現する炎の色は赤色と決まっている。だが今回俺の頭上に出現したのは青色だ。俺が前世で試したのと同じだ。
これでもう間違いない。俺は成功したんだ、あの裏技に!
武者震いが止まらなかった。そんな俺の喜びを邪魔するかのように、突然至聖所の扉が開いた。
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