第三十八話 究極の強化薬〈覇王の魂〉とは?
パメラの言う通りだ。今ディエゴがカウンター越しに話しているのは、キシア帝国の上流貴族。
俺の実家にも定期的に父が帝国からの上流貴族を招き入れていた。父も頭が上がらず、毎回来るたびにぺこぺこしていた。
〈ロード・オブ・フロンティア〉の世界で、最大の規模を誇る国、それが中央大陸にあるキシア帝国だ。
そのキシア帝国の貴族の中でも特権階級に位置するのが上流貴族だ。胸にバッジをつけているが、その模様はキシア帝国を象徴する国花であるバラの花びら。
そのバラ模様のバッジを見れば、誰もが頭を下げる。俺の父も絶対逆らえない、貴族の序列は絶対なのだ。
一体何でそんな人がこんな島に。俺はさっきのディエゴとの会話を思い出した。
「これは、何か裏があるね」
「なにが言いたいの、ロバート?」
「さっきのディエゴとの会話を思い出してよ。彼は黒曜豆を持っていた。そしてその黒曜豆はキシア帝国の上流貴族の間でしか飲まれていないんだって……」
「そういえばそうね。え? ってことはもしかして……」
その時だった。ディエゴと話していた目の前の貴婦人が、鞄の中に何かを入れた。よく見たら小袋で、さっき俺がディエゴさんから見せてもらったものとほぼ同じものだ。中身はもうわかった。
そして今度は貴族風の人物が、ディエゴに何かを渡した。光っている丸い物体、間違いない、金貨だ。かなりの枚数ある。
「今の見た? ディエゴさんが!」
「あの中身は黒曜豆だね。それにしても凄い金貨の数だな、十枚以上はありそう」
「信じられない。あのディエゴさんが裏で帝国の貴族から賄賂をもらっていたなんて!」
「賄賂って言うのは言いすぎでしょ。彼も商売柄しょうがないんじゃないか。それに黒曜豆は本当に希少品だから、貴族には高値で売れるんだ」
「そういえば、さっき話の途中だったわね。あの黒曜豆からできる黒曜水って、何かの薬の材料になるって話……」
「あぁ、〈覇王の魂〉のことだね」
「そう、それ! さっき言いかけていたじゃん。あなた知ってるのよね、どんな効果があるの?」
パメラは興味津々だ。確かにパメラの気持ちもわかる。
〈覇王の魂〉、名前だけ聞いても強そうだが、文字通りその効果も計り知れない。苦労してでも、大金を払ってでも精製する価値がある。
「五倍になるんだ、ステータスがね」
その言葉を聞いて、パメラは固まった。まぁこの反応も無理もないか。
「ご、五倍……?」
「そう、五倍だよ。といっても、上がるのは全部じゃない。攻撃力と素早さ、あと状態異常耐性だけかな。それに効果時間もそんなに長くない、せいぜい一分程度だけどね」
パメラはまだ呆気に取られた顔だ。
「信じられない。ステータスが五倍って。私の知っている強化薬でも、最大二倍までだったはずよ」
「あぁ、〈強者の魂〉だね。あれは全ステータス二倍かな、効果時間も三十秒まででぶっちゃけ使い辛いよね」
「それを上回る強化薬、そんなの是が非でも欲しいわ! となったら……」
パメラは目の色を急に変えた。そして室内をそわそわ歩き回り、物色し始めた。
「ちょっと、パメラ。あのディエゴのことだから、この部屋に無造作に置いてあるわけないでしょ。それにもう在庫はないかもしれないし」
「それは考えにくいわ。さっきも見たでしょ? 定期的に帝国の貴族に賄賂として渡すんだから。在庫がないわけないわ。備蓄はあるはずよ!」
「いや、まさか本当に盗む気!?」
俺の言葉を聞いて、パメラも動きを止めた。頼むから俺の前で犯罪はやめてくれ。
「……ごめん、私どうかしてたわ」
わかってくれたか。だがもしかしたら俺がいなくなったら、また同じ行動を起こしそうだ。よし、こうなったら事実を言おう。
「パメラ、さっきは言い忘れてたけど、〈覇王の魂〉は黒曜水だけじゃ生成できないよ」
「え? それどういう意味?」
「〈覇王の魂〉は確かに恐ろしい強化薬だけど、生成するには黒曜水だけじゃ駄目で、希少な素材がいくつも必要なんだ。例えばドラゴンの骨も必要になってくるんだよね」
「ドラゴンの骨!?」
「ドラゴンの骨だけじゃないよ。ほかにも隕石の欠片、覇王樹の枝、キマイラの瞳、アナコンダの体液、ケツァルコアトルの角もいるね。いずれにせよ、黒曜水ってのはあくまで主原料になるだけで、それ以外の素材を全部集めないと駄目なんだ」
〈覇王の魂〉は〈ロード・オブ・フロンティア〉に存在するぶっ壊れアイテムの一つ、数多くのプレイヤーが生成に挑んだ。俺もその一人だった。だから生成に必要な素材は完ぺきに覚えていた。
生成に必要な素材の種類が多く、集めるのも一苦労だ。だけどその苦労に見合った効果が得られるのは、間違いない。
俺の言葉を聞いて、パメラは途方に暮れたような顔をした。ここまで言ったら諦めがつくだろう。
「ちょっと待って、素材の名前もう一回教えて!」
「え、別にいいけど……」
俺はさっきと同じように、黒曜水以外に必要な六つの素材の名前を全部言った。するとパメラの顔色が変わった。
「アナコンダとケツァルコアトルなら大丈夫よ」
「え? どういうこと?」
「もうさっきの話思い出してよ、この島で強力なモンスターが異常発生しているってこと!」
「あ! そういえば……」
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