第三十七話 ディエゴと話す貴婦人
そういうことだったのか。もしアリゲーターベア以上の強敵が、ゴロゴロいるとしたら、さっきのパメラの話もわからなくはない。金貨一枚でも安いかも。
「だから、金貨一枚なら考えてあげるって言ってるの。それ以下は駄目よ、絶対!」
「えぇい、わかったよ。じゃあそう伝えておく。おい小僧、お前はどうすんだ?」
「小僧じゃねぇよ。俺はロバート・ヒューリックだ!」
「あぁ、そうだったな。名門貴族の長男だっけ? なんで貴族の坊ちゃんなのに冒険者目指すのか知らねぇがよ、ディエゴはお前さんの腕もなぜか買ってんだ。どうする? まさかお前も銀貨五枚じゃ安すぎるって言うのか?」
「あぁ、そうだね。安いと思うよ」
「なにぃ!? お前までそんなこと言うのか? じゃあ二人とも最低でも金貨一枚が条件か?」
パメラは頷いた。だけど俺は違う。
「ちょっと待ってよ。俺はまだ引き受けるなんて言ってないよ」
「え? ロバート、まさかまだ……」
パメラが俺を凄い顔で見た。違う違う、俺はそこまでがめつくないって。
「誤解しないでよ。俺は用心棒はできない、残念だけど……」
「おいおい、ちょっと待てよ。あの大商人ディエゴの依頼を断ろうってのかい。すげぇ神経してやがんな、わかった。じゃあ金貨二枚でどうだ?」
「違うって言ってんだろ。報酬の問題じゃないんだ、俺はそもそも用心棒なんか興味ない」
「興味ないだぁ? ディエゴがお前の腕を買ってんだぞ。ってことは、お前の実力は……」
ホルスが訝しむ。
「それはないわ。ロバートの実力は私が保証する。アリゲーターベアだけじゃなく、カルロスだって一撃で倒した。彼は用心棒に最適よ」
「なんだとぉ!? その話が本当なら尚更用心棒を断る理由がねぇ、実力があるんならピッタリな仕事だろうが!」
「ディエゴには悪いけど、俺は自由にこの世界を旅したいんだ。用心棒なんて誰かに雇われるような身にはなりたくない」
「ロバート……」
持論を展開した。これで納得してくれるかな。
「はっ! よく言うぜ。お前本当に貴族の坊ちゃんだな。世界中を旅する冒険者? 確かに憧れる奴は多いが、そんな世の中甘くないんだぜ! もうちょっと現実を見ろっての」
「うるさいな。鳥なんかに言われたくないね」
「なんだとぉ、てめぇ! その顔に俺のかぎ爪一生消えないくらい残してやろうか?」
やれやれ、なんというか気性が荒いというか、俺が昨日会ったチンピラどもと似ているな。飼い主のディエゴはあんなに礼儀正しかったのに、一体この違いはなんだ。
「ちょっと、落ち着きなさい! ロバートにはロバートの生き方があるわ。ほかに実力をある戦士を探せばいいでしょ?」
「ちっ、まぁいい! 好きにしな! 元々俺は伝言役なだけからな。言っておくが、後でやっぱり考え直すってのはなしだぜ! じゃあ俺はこれで……」
ホルスはそう言い残して、部屋から出ていった。
「行っちゃった。でも本当にいいの? こんなおいしい話まずないわよ」
「ははは、確かにね。まぁさすがに金貨五枚とかなら、考えなくもないけれど」
「うぅ、さすが貴族の坊ちゃん。がめついわね。じゃあ、本当にディエゴさんが金貨五枚も出してくれたらどうする?」
「うーん、それはないと思うけど。というか、あの人は俺のこと買い被りすぎなんだよ、俺はランクDの戦士さ。とても一流の戦士なんかじゃないよ」
「まーだ、そんなこと言って……」
パメラは白々しい目で俺を見た。
「あっ、俺のステータスのバグのことは言わないでね」
「はいはい、わかったわ。都合の悪い時だけランクDの戦士ってことね」
「まぁそういうことだね」
「それじゃ、これからどうする? ここでのんびりするのもいいけど……」
「そうだね。ギルドに行ってもまだメンバーカードがないから、討伐の依頼は受けられないし」
「ディエゴさんはまだカウンター? アルバイトの子はいつ来るの?」
パメラがカーテンを開いてカウンターの様子を見た。俺も横からこっそり覗く。ディエゴが何やら客と話し合っているようだ。
するとパメラが目を見開いた。一体何を見た。
「嘘でしょ? なんで?」
「どうしたんだ? パメラ?」
「どうしたもこうしたもないわ。今ディエゴさんが話している人」
パメラが注目したのはディエゴと話している人物だ。よく見たら、何と帽子を目深に被っている。
ただの帽子じゃない。よく女性が日焼け防止のために被るつば広の帽子みたいな感じだ。そして床まで裾が届くスカート、ロングドレスを着ている。中世ヨーロッパの世界でよく登場する貴婦人と表現した方がしっくりくるな。
「明らかに貴族だね。帽子のせいで素顔がわからないけど、ずいぶんと高そうな服だな」
「ちょっと、ロバート! 普通の貴族とかじゃないわ!」
「普通の貴族じゃないって? それどういうこと?」
パメラが俺を信じられない目で見つめ返した。
「あなた、わからないの? あの人の胸に着けてあるバッジ!」
バッジ、確かにあるな。かなり高級そうな丸型の銀色のバッジだ。しかもかなり特徴的な模様をしている。
「あれ? あのバッジって……」
見覚えがあった。だがどこでだ。俺のこれまでの十三年間の記憶を掘り起こす。父がたまに実家に招いていた客人にも同じバッジをつけていた。
そこで俺もハッとした。
「まさか、あの貴族って……」
「中央大陸キシア帝国の上流貴族よ。なんでそんな人が……?」
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