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第三話 俺だけが知る裏技!

 朝食を済ませた俺は、中庭に出て気持ちを落ち着かせた。そして改めて俺は、今後の身の振り方を考える。


「〈開花の儀〉、か」


 この世界は俺が前世でやり込んだMMORPG〈ロード・オブ・フロンティア〉そのものだ。〈開花の儀〉もやはり同ゲームでプレイヤーが操作するキャラクターが、オープニング後に行なう最初のイベントと決まっている。


 〈開花の儀〉というのは、どのキャラクターにも共通する強さ、ステータスの成長度合いを決定づける大事なイベントだ。どのキャラクターも戦士として冒険することになるが、その冒険においてキャラクターがどれだけの成長度合いになるかで、攻略の難易度が大きく左右される。


 実際ゲームの攻略難易度に大きく左右されるから、本当に炎の数は重要だ。この炎の数で失敗するわけにはいかないから、攻略サイトでは俗に『炎ガチャ』なんていう単語まで登場したほどだ。


 MMORPGだから、操作するキャラクターは好きなように選べる。貴族や平民、冒険者、商人、あるいは奴隷なんかもあるが、実はどのキャラクターを選んでも〈開花の儀〉は受けることになる。


 今回たまたま俺は貴族に転生したが、俺は前世で全キャラクターを選んで遊んでいた。やはり今までいた屋敷の中、執事や家族の名前、父との会話、そしてこの中庭の風景、どれをとっても完全に一致している。


「となると、あそこに」


 俺は中庭の端にある噴水の場所へ行った。巨大な円形の泉の中央の装置から絶え間なく水が噴出し、その装置の真上には立派な鎧と剣を装備した一人の男性の銅像が立っている。


 銅像の足元には『偉大なるヒューリック家の始祖 アルフレッド・ヒューリック』と書かれていた。その強さから“闘神”とまで称された始祖で、ヒューリック家の威光と繁栄を願うために代々この中庭に設置されている。


 やはりこの銅像も、前世の俺の記憶と一致した。ここまで来たら、もうやるしかない。


「あの裏技、試してみるか!」


 俺はまず始祖の銅像に向ってお辞儀をした。そして視界の右下に表示された時計を見て、七秒間経ってから頭を上げた。


 今度は噴水の周りを時計回りに七周した。数え間違えてはいけない。きっちり七周だ。


 念のため噴水の泉の中を見た。七周だったら、泉の中の魚が七匹同時に銅像の近くに集まっている。


「よし、確かに七匹だ!」


 そして今度は自分の部屋へ向った。俺はタンスの中を調べ、ある物を探し出した。


「あった、これだ!」


 取り出したのは財布だ。ゲーム内で使用できる通貨が入っている。中には現実世界の日本通貨の五百円玉と同じくらいの大きさの金貨が10枚入っていた。一枚で100ゴールドに換算される。


「ってことは今の所持金は1000ゴールドか? 念のため確認したいけど」


 ブオン!


 再び妙な音が響いた。すると俺の視界の左下の隅、ちょうど時計が表示されているのと対称の場所に、四桁の数字が四角の枠に囲まれた状態で出現した。表記は「1000ゴールド」となっている。


「1000ゴールド、これが所持金か。だが時計といい、所持金といいちゃんと表示されているのは便利だな。あとは……」


 ここで俺は意を決して、頭の中である単語を思い浮かんだ。「ステータス!」と。


 だが何も出てこない。最も気になった俺のステータス画面だけは、まだ表示されなかった。


「やっぱりステータスだけは〈開花の儀〉まで待たないとダメなんだな。おっといけない、まだやるべきことがあった」


 俺は財布が入っていた引き出しの奥の方に入っていた貯金箱を取り出した。世にも珍しい貯金システムがあるゲームだ。例えばモンスターに襲われて全滅しても貯金箱の中に入っていれば、再開後も所持金は貯金箱の中のお金だけは減ることはない。


 俺は貯金箱の中に三枚の金貨を入れた。そして左下の表示がちょうど300減って、「700ゴールド」となった。


「あとは所持アイテムも確認しないと」


 ブオン!


 再びこの音が響いた。「アイテム」と心の中で念じたら、案の定目の前に所持アイテムの一覧が長方形の枠内に表示された。


 上から順に、「回復薬(小)×3、銅の剣×1、銅の盾×1、毒治療薬×2、世界地図」と並んでいる。数字はそのアイテムの個数だ。もちろんこの並び順も熟知していたから、何も驚かない。


 しかし大事なのはこの後だ。この並び順ではダメ、並び替えないといけない。


 といっても、どうやって並び替えればいいんだ。目の前のアイテム一覧の表示に手を伸ばしても、何も変化しない。相変わらず腕の中に文字が入り込むだけだ。俺の間隔では手に触れれば、その項目を選択できると思ったがそうもいかないようだ。


 そもそも根本的に不明な部分があった。目の前に表示されたアイテムの一覧ってどこにあるんだ?


 ブーン!


 またも俺の心の声に呼応するかのように、今度はやや特殊な音が響いた。一瞬耳元にハエが近づいたのかと思ったが、よく見たらアイテム一覧が表示された長方形の枠の真下辺りに、これまた細長くて真っ黒な長方形が出現した。


「まさか、これは!?」


 予想は当たった。その長方形に右手を伸ばすと、すんなりと中へ入った。ゆっくりと中を覗き込むと、アイテム一覧に表示された五種類のアイテムがあり、個数も一致していた。


 これがアイテムボックスか。空中に突然出現した無限に広がる収納ボックス、便利すぎる。子供の頃に見たロボットアニメの某ポケットだな。ゲームの世界に転生したから多少予想はしていたが、本当にこの手で直接触れて操作することができるとは思わなかった。


 俺は中のアイテムを適当に一つ掴んだ。見た目は銅の剣で右手で掴んだまま、床に置こうとした。


 すると目の前に『「銅の剣×1」を装備しますか?』と、『はい いいえ』と表示された二つの長方形の枠が出現した。


「『いいえ』だ」俺は言葉で言った。長方形の枠が消え、目の前に表示されたアイテムの一覧から「銅の剣×1」が消えた。


 再度銅の剣をアイテムボックスの中に入れた。今度はアイテムの一覧の一番下、世界地図の項目の真下に「銅の剣×1」が表示された。


 これでアイテムの整頓の仕方がわかった。俺はアイテムを全部取り出し、中を空にした。


「いや、まだあったんだっけ?」俺はここでふと思い出す。まだ追加しなきゃいけないアイテムが二種類あることを。早速本棚に近づき、お目当ての本を探した。


「これだ!」手に取ったのは〈剣術スキルの書〉、そして本棚の上に置かれた木箱の中に入っていた〈謎の鍵〉、この二つだ。


 この二つのアイテムも含めてボックスの中へ収納する。入れる順番は間違えてはいけない。一番最初に入れたアイテム名が枠の一番上に表示され、最後に入れたアイテム名が一番下に表示される。


 全てのアイテムをボックス内に入れて、上から順番に「回復薬(小)×3、毒治療薬×2、銅の剣×1、銅の盾×1、剣術スキルの書、謎の鍵、世界地図」となったのを確認した。


 これで完璧だ。下準備は全て終わった。


 俺の思惑通りに事が運ぶなら、〈開花の儀〉で俺に与えられる炎の数はもう決まった。


「俺は、今世でも世界最強になってやる。二週目プレイ上等だ」


 そして正午になり、俺は両親とトマスと一緒に町の中央にある大聖堂へ向った。

第三話ご覧いただきありがとうございます。


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