エピローグ11
すっかり動かなくなったカナリアを掌に乗せてイヴに見せた。イヴは呆気にとられた。
「……あぁ、なんてこと。これは……」
「もしかして……ダメ?」
「いえ……大丈夫。この程度なら……なんとか……」
イヴが両手をカナリアにかざして光を淡い光に包んだ。これは何の魔法だろうか。スキルの一種かな。
わからないけど、カナリアを治癒しているのは間違いないだろう。これで意識を取り戻してくれ。
「…………うぅ……」
「おぉ!! カナリア、大丈夫か!?」
「……ロバート……大丈夫よ。ありがとう……」
「いやぁよかった。礼ならイヴに言ってくれよ」
「イヴ?」
「お前の本当のご主人様の新しい名前だ」
カナリアがイヴを見上げた。二人の宝石が緑色に光っている。感動のご対面だな。
「カナリア、よく戻ってくれたわ。今までありがとう」
「イヴ……そう……新しい名前を授かったのね」
「えぇ……ロバートが授けてくれたの。私は今日からイヴ。そして……彼のパーティーに正式に仲間入りすることにしたのよ」
「へへ。安心しろよ、カナリアだって俺のパーティーの一員だ。これからやっとご主人様と一緒に旅出来て嬉しいだろ?」
「…………」
「ん? どうした、黙りこくって……」
変だな。カナリアが急に何も言わず黙り込んだ。あれだけおしゃべりだったのに。そして気のせいか、イヴも悲しげな顔を見せる。
「ロバート。あなたに言ってなかったことがあるわね」
「言ってなかったこと?」
やっと口を開いたかと思ったら、何やら事情ありげな雰囲気だ。
「カナリアが、私の分身だということは前にも話しましたね」
「それは……そうだな。覚えてる」
「そもそもどうして私の分身をあなたに遣わしたのか、それは……」
「イヴは元々、下界に自由に行き来できない存在だったのよ。だからあなたを支援するために私を送り込んだ」
「……あぁ、そうだったな。今までそれで助けられた、なんてお礼を言ったらいいか」
「でも、もうその必要もなくなったのよ」
「……それはどういう意味だ……?」
カナリアの言葉に俺は少しだけ嫌な予感がした。
「イヴがあなたのパーティーに加わり自由に行動でき、そして自由にあなたを助けられる。そうなれば私の役目は……」
「ちょ、ちょっと待てよ……それじゃ……」
イヴがうつむいた。俺はそれから先の言葉を聞きたくなかった。でも代わりにスージーが投げかけた。
「つまり、カナリアは……イヴと一体化して……消えるってこと?」
カナリアもイヴも、何も言い返さなかった。少しだけ頷いたかのようにも見えた。
「嘘だ! そんなの!」
俺は思わず大声を張り上げた。ここまで感情的になったのは多分転生後初めてだな。
「ロバート、残念だけど……こうするしかないのよ!」
「ふざけんなよ。カナリアだって普通の鳥に戻れるはずだ」
「本来私はデバッグバードとしての存在。ゲームの世界でしか存在できないのよ」
「そんな……そんなこと……知ったことか!」
思わず涙がこみ上げそうになってきた。自分でも冷静にならないといけないというのはわかる。でも、だからってひどすぎるぜ。
「いい加減しなさい、ロバート!」
今度はスージーが声を張り上げた。
「『インテグレーション』を実行させたのは、ほかでもないあなたなんでしょ? だったら……それ相応の犠牲や代償は……払うべきよ!」
「……そうだけど……」
「悲しいのは……あなただけじゃないんだから……」
「…………」
沈黙がしばらく支配した。一体どうしたらいいんだ。と、思ったら急にカナリアの体が光り始めた。
「な、なんだ!?」
「あぁ、どうやら……時間のようね」
「なんだと!? おい、ふざけんな。カナリア、消えるな!」
「大丈夫よ。体は消えても……イヴと一体化して、ずっとあなたを見守るから」
「ふざけんな! イヴ、止めてくれ! カナリアを普通の鳥に戻す方法はないのか!?」
イヴは無言でかぶりを振った。スージーも後ろから肩をたたいた、口で言わずとも表情で「もう諦めなさい」と言っている。
でも、俺はやっぱり受け入れたくない。なんとかカナリアを助けたい。すると、その時。
(……剣を握れ)
「え?」
(剣を握れ。そして虚空の彼方まで、全身全霊の力を込めて振れ)
「そ、その声は……?」
なんかどっかで聞いたことのある声が心の中で響いて来た。でも俺は悟った。これは間違いなく俺に託された一縷の望みだ。
俺はその声に従い覚悟を決めた。
「なぁ、カナリア。一つだけ聞かせてくれ。お前も……普通の鳥として、この世界で生きていたくないのか?」
「……それは……」
「イヴも、元はと言えば消える運命だった。今度は……お前の運命を変える番だ」
「それは……無理よ。私は本来彼女の分身なのよ。『インテグレーション』が完成したなら、私は彼女と一体化するさだめ。どう足掻いても、あなたの力では……」
「運命なんてものは、変えるためにあるんだぜ。見ていろ!」
「ロバート、一体何をする気!?」
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