第二百三十九話 皇帝陛下との会談
いきなり自分の意志に反して口が閉じてしまった。貴族達は何が何だがわからず戸惑った。だけどすぐさま何人かが、背後にいた魔道士が一瞬だけ自分達を一瞥していたのを見た。
(全くおしゃべりが好きな奴らね。アメリア、気にせず進んで)
耳がよすぎてヒソヒソ話も嫌でも聞こえてしまう。高位の魔道士ならではの特性がここに来て思わぬ副作用をもたらした。
あまり目立った事はしたくないが、陛下は気づいていないようでスージーは安心した。
皇帝のすぐ目の前まで来てキャサリンとスージーは立ち止まり、再びお辞儀をした。
「皇帝陛下、私の依頼をお受けしていただいて誠に感謝します」
今度は後ろにいたスージーがお辞儀した。
「お初にお目にかかります。私はアメリア様の右腕の魔道士、ルウミラ・ゼゼーナンと申します」
「うむ、遠路はるばるよくぞ参られた。さて、ローザンヌ公爵令嬢よ、そなたの依頼について再確認したいのだが……」
皇帝のすぐ隣にいた側近に顔を向けると、側近から丸められた一枚の紙をもらった。
紙を両手で広げ、そこに書かれていた内容を読み上げると、一部の貴族達が急に騒ぎ立てた。
「ヒューリック家が当主となっている南西の小島の領有権を拝借されたいですと!?」
「馬鹿な……ローザンヌ令嬢は本気なのですか!?」
「あら……いけませんか?」
騒ぎ立てた貴族をチラッと見てキャサリンは言い放った。皇帝はしばらくキャサリンを見たまま、口を閉ざす。
「陛下! そのような無礼な申し立てなど即刻お断りを!」
「さようです。ついこの間出世したばかりの一公爵令嬢ごときが、島の領有権を譲渡されるなど、身の程知らずもいいとこです」
「今……なんとおっしゃいました!?」
ついに後ろにいたスージーの堪忍袋の緒が切れた。たった今大声でまくし立てた貴族を魔法で宙に浮かべた。
「うわっ!? な、なんだこれは!?」
「おい! 貴様、何をする気だ!」
「アメリア様を侮辱した罪は重いわ。今すぐ謝りなさい! さもないと……」
宙に浮かんだ貴族は首元に両手を近づけ、もがき苦しみだした。
「うぐっ! く、くる……しい……助けて……」
「これこれ、ルウミラよ。少し冷静になりなさい」
皇帝に注意され、スージーがはっとして魔法を解除した。
(そうだった……今の私はルウミラ。冷静にならないと……計画を成就するために……)
「はぁ……はぁ……な、なんて女だ……」
「陛下! 今の見ておられましたか!? いくら私達に非があるとはいえ、いきなり魔法で制裁を下そうとするなんて危険すぎます。それでも島を譲渡されるつもりですか!?」
「その通りだ。そもそもヒューリック家の当主の許可は得たのか、アメリア令嬢!?」
貴族の一人が質問した。
「……許可は得ていませんわ。何度も交渉しましたけど、頑なに拒否されましたの」
「それでは譲渡などはもってのほかだ。陛下、もうこれで決まりですな。アメリア令嬢に島を譲り受ける資格などありませんぞ!」
「お待ちください、皆様。まだ大事なことを忘れてはいませんか?」
「大事なことだと? 何が言いたいのだね?」
キャサリンは軽く咳払いした。
「島の領有権の譲渡に関わる法令をご存じでしょうか? 何条かは忘れましたか、その中にこう書かれた条文がございます。『島の領有権はその島の当主本人の意向より、帝国君主の意向が優先される』と」
その説明を聞いて、貴族達は静まり返った。皇帝はその説明をするのを予測していたように、口を閉じたまま微動だにしない。
「陛下もご存じのはずです。帝国君主とはまさに皇帝陛下のことを指しますから」
「で、ですが陛下……いくらなんでも唐突過ぎますぞ!」
「さようです。そもそもどうしてあんな小島を治めたいと考えたのでしょうか? 何か正当な理由がおありですか、アメリア令嬢?」
「あら? レディーの事情に首を突っ込むなど野暮もいいところですわ、もう少し立場を弁えてほしいものですね」
「なんですと……さっきから聞いてれば、あなたもあなただ。ここをいかなる場とお考えか!? 陛下が目の前にいらっしゃるというのに!」
「そうだ! 立場を弁えていないのはあなたではないか!?」
今まで控え気味だった貴族達もここに来てアメリアへの攻勢を強めた。
スージーはイライラが募る。だけどここは我慢しなければいけない、今ここで貴族達を強引に黙らせては陛下の印象は最悪だ。
「皆の者! 静まれ!」
皇帝が一喝した。その一声で場内にいた貴族達は全員静まる、そして皇帝はゆっくりと立ち上がった。
「アメリア令嬢よ。そなたの意向、受け入れないわけではないぞ」
その一声が響いてしばらくして、再び場内がざわついた。
「へ、陛下! 今何と!?」
「まさか……気は確かですか!? 本当にアメリア令嬢に領有権を譲渡されるつもりなんですか!?」
「……帝国君主の意向が優先される。アメリア令嬢の言う通りだ、全て私の意向で決める」
「そ、そんな……」
貴族達の間で驚きと落胆の声が入り混じる。スージーはほくそ笑んだ。
「だが……一つ条件があるぞ」
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