第二十一話 癒しの受付嬢レミー
中年男性は俺と目が合い、近づいていた。
「どうやら、騒動の張本人は君のようだね」
「その通りです、マスター。この少年が言うには、彼は屋上から来たとのことですが……」
「なにぃ!? 今なんて?」
「で、ですから……一階の入り口からではなく、なぜかこの建物の屋上からここまで降りてきて」
「でたらめですよ、そいつの言っていることは! この建物の高さは20メートルくらいはあるんですよ。どうやって上るって言うんです?」
「普通に一階の入り口から入りゃいいじゃねぇか。それとも何か? お前は空が飛べるって言うのかい?」
「はっはっは! 愉快極まるぜ。どんなに凄腕の戦士だって、空は飛べねぇ。坊主も冗談がうまいねぇ」
周りに集まっていた戦士達が俺のことをからかいはじめた。今正解が出たな。冗談でもなんでもなく、本当に俺は空高くまで飛んで、それから歩いてこの建物の屋上へ落下したんだ。
するとどういうわけか、ギルドマスターが俺にさらに近づいた。確か本名はジョニー・テープっていったっけ。その外見は、有名な外国人俳優がモデルとなっているという設定らしい。
かなり背が高く俺は圧倒された。怖い目で俺をジロジロと見下ろす。近づいてきて初めて気づいたが、なんと香水の香りまでする。なんてオシャレなギルドマスターなんだ。
「な、なんだよ……」
「君は……ロバート・ヒューリックじゃないか?」
「え? マスター、この少年をご存じで?」
「知ってるもなにも、ヒューリック家の長男だろう」
しまった。やっぱりギルドマスターも俺のことを知っていたか。
「え? この島の当主ヒューリック家の長男だったんですか?」
「あぁ、そうだ。どっかで見た顔かと思ったら!」
「ま、まぁ……そうだね。改めてロバート・ヒューリックだ。よろしく」
俺は苦笑いしながらも自己紹介した。だがジョニーは一切笑顔を見せない。すると隣にいる女性職員のレミーに視線を移した。
「レミー、本当に彼は屋上から降りてきたんだね?」
「はい……いえ、すみません。正確には見ていませんが、さっきの大きな音は間違いなく彼の仕業だと……」
「見ていない? 彼が屋上に落下したところを、この目でハッキリと見たわけじゃないんだね」
「す、すみません。そうです」
「でも間違いなく彼ですよ。その証拠に見て下さい、彼の体大けがじゃないですか」
ジョニーは俺の体をジロジロと見回す。
「ロバートくん、君には聞きたいことが山ほどあるが、まずはその傷ついた体を治療させないとね」
「ありがとう。じゃあ回復をお願いできるかな?」
ロバートはレミーに手で合図をした。直後、レミーの手が俺の体に触れる。
「動かないで、じっとしていてね」
「え、うん……」
直後俺の体に触れた彼女の両手から、淡い光が漏れだした。体中の痛みが和らいでいくのを感じた。
なるほど、そういえばレミーも回復魔法が使えたっけ。
「う、羨ましい! 小僧、この野郎……」
なんだ、周りの野次馬戦士どもが俺に羨望のまなざしを向けている。まさかこれは。
「ははは、ロバート君。君は今後彼らに恨まれるぞ」
「あ、あの……俺は別にそんなつもりじゃ」
「ふざけないでください! 私は仕事の一環でやってるだけですから! ロバートさんも動かないで、回復魔法は高度な魔法なんですから」
レミーがやや恥ずかし気な表情で言い返す。周りの野次馬戦士はさらに俺を睨みだした。
確かにレミーは美人だ。スタイルもいい、そして何より胸も大きい。ミニスカートでハイヒールを履いているから、いつも多くの男性戦士を魅了させる。
本名はレミー・カサノバ。ギルド『三日月の誓い』の癒しの受付嬢、彼女にはそんなキャッチコピーがあったっけ。そんな美人に回復魔法をかけてもらっている。これじゃギルドに立ち寄る戦士達も、黙っているわけないな。
さっきは町の外で変なチンピラたちに絡まれるし、今度はギルドでも注目を浴びてしまう。ちょっと散々だな。
「すみません、あの! ちょっといいですか!?」
唐突にパメラの大声が聞こえた。一体なんだろうか。
「おや、確か君は……」
「あれ、あんた! 弓使いのパメラじゃないか!?」
「本当だ? あのランクAの!? 全然気付かなかったぜ、いつの間にいたんだ!?」
「さっきからずっといたわよ。それよりジョニーさん、大事な話があるんですが、いいですか?」
一同はパメラの方を向いた。やった、取り敢えずこれで俺へ視線が集まることはなくなった。
「すまないな、パメラ。今見ての通り取り込み中なんだ。ロバート君にいろいろ聞きたいことがあるから、その後で……」
「ジョニーさん、もっと大事なことがあったの忘れていませんか?」
パメラは妙なことを言い出した。もっと大事なことだって。一体何の話だ?
「……大事なこと?」
「あのモンスターの討伐、放置していていいんですか?」
パメラがギルドの中央の壁に掛かっていた掲示板を指差した。掲示板にはいくつもの貼り紙が貼られていて、その中で一番大きい貼り紙に描かれていたモンスターの絵は嫌でも覚えていた。
「あ、あれは!?」
「アリゲーターベア!? 嘘だろ、五つ星ランクの凶悪モンスターじゃねぇか!?」
「確か、漁師達の漁船が襲われたって聞いたぜ。討伐の依頼が出ていたんだが、一体どうなったんだ?」
アリゲーターベア、夕方俺が倒したモンスターだ。五つ星とはモンスターの強さの等級で、俺達戦士とは違って星の数で表される。もちろん五つ星は、このギルドで紹介される中では最上級のモンスターだ。
「そうだった。ごめん、すっかり忘れてたよ」
「もう、マスターしっかりしてくださいよ」
「そういえば、パメラさん。あんたが討伐に向かったのかい?」
第二十一話ご覧いただきありがとうございます。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman




