百九十六話 仮面の少女
パメラは咄嗟に弓を構えた。一度も戦ったことはないが情報は知っていた。
巨大な鋼鉄製の体をしていて、顔には一本の長い触角を生やしている。まさに目の前にいる奴と同じ姿。
「以前の私だったら手も足も出ないでしょうけど、今の私なら……勝てる」
「パメラさん、私も戦います。あいつには物理攻撃が……」
「知ってるわ、効かないってことくらい。でもあなたは下がってて」
「そんな……どうやって勝つって言うんですか?」
「ロバートなら、こうするでしょうね」
「ぎゅくろおおおおお!」
ハイパーメタルビートルが突進してきた。顔から生えた巨大な触角が、そのままパメラ目掛けて襲い掛かる。
「よけてえええ!」
ガキィイイイイイイン!!
一本の長かった触角は途中で真っ二つに折れた。折れた先端の部分が無残にも地面に突き刺さる。
「ぎぃえええええええ!!」
「え? 今のは……?」
「だから言ったでしょ。心配ご無用よ」
パメラは矢を放っていた。その矢で頑丈な触角をへし折ったことは、ノーラの目にも明らかだった。
「〈スターライトアロー〉!」
間髪入れずパメラはスキルを放った。一瞬で矢はハイパーメタルビートルの胴体を貫き、反対側の壁まで到達して巨大な穴を開けた。
「ぎゅぐ……おおお…………」
ハイパーメタルビートルはそのまま地面に倒れこんだ。
「ざっとこんなもんよ!」
「す、すごい……凄いです! やっぱり、本当にステータスが10億も!」
「ノーラ、喜ぶのはまだ早いわ。今はエディとロバートを探さないと……」
パチパチパチパチパチ!
どこからともなく聞こえた拍手の音に二人ともハッとした。なんと二人が振り向いた先に、仮面を被った人物が立っていた。
「だ、誰!?」
「おめでとう、パメラ・シュナイダー。私が召喚したハイパーメタルビートルも、やっぱり敵じゃなかったわね」
拍手をしながら、近づいて来た。思った以上に小柄な体格、声からして女性、しかもまだ幼い。
パメラもノーラも呆気にとられしばらく声が出ない。しかしパメラはどことなく聞き覚えがある声だと思った。
「あなた……誰なの!? どうして私の名前を知ってるの!?」
「あなたはあの時の!?」
「え? ノーラ知ってるの?」
「ふふ、久しぶりね。私のこと覚えてくれてたんだ」
仮面の少女は笑いながら答えた。そしてどこからともなく右手に枯れ木の枝を持って、二人に見せつけた。
「その枝は!?」
「あなたも知ってるわね。そうよ、この枝は〈覇王樹の枝〉」
「もしかしてあの枯れ木を村長に売ったのって……」
「はい、彼女です」
「ロバート君が欲しがってたわね。本当は私が横取りするつもりだったんだけどさ」
「ロバートですって? もしかしてあなたが彼を!」
パメラは少女に矢の先端を向け弓を構えた。
「落ち着いて、ロバート君なら大丈夫よ。今は別の場所にいるだけ」
「そんな言葉、簡単に信じると思って? 本当に大丈夫なら、今すぐに彼を連れてきなさい! さもないと命はないわよ!」
「おう、怖い怖い。今すぐ連れてくるのは無理ね、別の場所と行ってもかなり離れちゃったから」
「なんですって……ロバートをどこへやったの!?」
「あなた達がとても手が届かない場所、と言っておきましょうか」
「私はわかります。多分ロバートさんも、あの黒い穴に吸い込まれたんです!」
「黒い穴ですって!?」
「ふふ……その通り」
仮面の少女は宙に浮かび上がった。そして彼女の背後から多くの羽を生やした生き物が飛び出した。
「あぁ、あの黒い羽! 間違いありません!」
「くぅ! 卑怯な真似するんじゃないわよ!」
「卑怯なんかじゃないわ。彼は強すぎるのよ。だからしばらく退場させただけ」
シュッ!
仮面の少女が言葉を言い終えた直後、パメラは即座に矢を放った。矢は少女のすぐ後ろの壁に衝突し穴を開けた。
「ぱ、パメラさん……」
「今のはわざと外したのよ。次が最終通告よ! 今すぐにロバートを出しなさい!」
「……やれやれしょうがないわね。じゃあ、わかったわよ」
パチン!
少女が右手の指を弾くと、浮かんでいた彼女の下の地面の上に真っ黒な丸い円が出現した。
「あの黒い穴は?」
「ほら、出番よ!」
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