百九十五話 エディ失踪の引き金
「遅いわね。何してるのかしら、ロバートは?」
階段を降りたはずのロバートからの返事をパメラとノーラは待ち続けていた。
すでにロバートが階段を降りて、十分以上は経った。だけど何の返事もしない。二人とも不安が募る一方だ。
「もう我慢できないわ。私……行ってくる。ロバートはまだ地下にいるのよね?」
しびれを切らしたパメラは遂に決断した。ノーラの〈サーチ〉で、ロバートが地下にいることを再確認した。
「います。でも……変です。なんか同じ場所でずっと止まっていて……」
「ずっと止まっているってどういうこと? なんで動かないのよ」
「わかりません。でも、もしかしたらこれも魔法のトラップかも」
「あぁ、もうわかった。深く考えても仕方ないわ。とにかく探すべき人間がもう一人も増えちゃったってことになるわ。世話が焼ける」
「やっぱり行くんですか?」
「当然よ。心配しないで、私にはロバートからもらったステータスがあるから……」
「ステータスをもらう? どういうことですか?」
「えぇとね、その……あるアクセサリでね。彼の膨大なステータスの一部をもらったのよ。それで……」
ズシィイイイイイイイイン!!
突然の轟音とともに、鍾乳洞内も大きく揺れた。
「い、今のは!?」
「地下で何かあったのよ! 急がないと!」
「待ってください。多分大型のモンスターが出現したんじゃないかと」
「モンスターなら、なおさら危険よ! ノーラはここに残って!」
「いえ、私も行きます! 万が一にも魔法が必要になるかもしれません」
「……わかったわ。でも決して前に出ないでね」
パメラも渋々了承して、二人一緒に階段に向かった。
地下へ降りる階段を降り始める。再び轟音とともに鍾乳洞が揺れた。ノーラが掴んだ腕から彼女が怯えていると、パメラもひしひしと感じた。
「……大丈夫よ。何が現れようと怖くはないわ」
「でも……この振動からして、かなりの大型と思いますよ。パメラさん……」
「さっきも言ったけど、私にはロバートからもらったステータスがあってね。全てのステータスが10億以上あるのよ」
パメラの言葉を聞いて、ノーラは一瞬耳を疑った。
「じゅ、十億……ですか!?」
「そうよ。信じられないかもしれないけど、ロバートは私にステータスの一部を与えたの」
「一部!? 10億が一部だって言うんですか!?」
パメラは頷いた。
「これだけのステータスがあれば負ける敵なんていないわ。だから大船に乗ったつもりでいなさい」
「…………」
「どうしたのよ? まだ私の言うこと疑うの?」
「いえ。私はパメラさんが嘘をついているとは思えません。ただ……」
ノーラは神妙な顔をして言った。
「実は、エディも同じことを言っていたんです」
「……は?」
予想外のことを言われ、パメラは思わず階段の途中で止まった。
「今なんて? エディって、あなたのお兄さんも私と同じことを言ってたの?」
「そうです。ちょうどあなた達と出会った翌日になるんですけど、エディがいつもの買い出しから帰ってきた後、真っ先に私に言ったんです。『俺はステータスが10億以上もあるぞ!』って」
ノーラの口からにわかには信じがたい事実が飛び出した。ノーラがでたらめなことを言うとは思えず、パメラはそのまま考え込んだ。
そして重要なことを思い出した。
「そういえば彼のステータス値、エイダが〈アプレイザル〉で調べたんだっけ。でも確か……見れなかった」
「そうなんです。エディは〈開花の儀〉を受けていたんですけど、ほかの人と違って炎が何十個も出現しました」
「そうだったわね。それでその件は、エイダが興味を示していたんだけど……」
「エイダさんから何か聞きました?」
パメラはかぶりを振った。
「ごめんなさい。いろいろ騒動があって、すっかり忘れてたわ」
「そうですか。でもエディはその後も興味深いことを言ってました。『俺の潜在能力を引き出してくれる人がいる』って……」
「潜在能力を引き出してくれる人?」
「詳しくは聞けませんでした。それだけ言い残して、その翌日に失踪して……」
「多分そいつがエディをさらったのよ。絶対悪だくみを考えているわ、見つけたら容赦しないんだから」
「私は……心当たりがあります」
「え? 心当たり?」
ノーラが話を続けようとしたが、また鍾乳洞内が揺れた。
「うぅ……今度のはさらに大きいわね。ごめんなさい、まずはモンスター退治を優先させないと」
パメラは階段を再び降り始めた。地下へ辿り着き、大きな広間の中央まで足を運んだ。
「広いわ……こんな場所があったなんて」
「パメラさん、あそこ!」
ノーラが大声を出して指を差した。その先には巨大な穴が広間の壁にできていた。
「ぎゅくろぉおおおおおおおおおお!!」
「なに……今の変な声は!?」
「来ます。パメラさん、気を付けて」
「わかってるわよ。ノーラも下がってて!」
ドシンドシンと鍾乳洞内全体を揺らしながら、その巨大なモンスターは姿を現した。
穴から出てきたのは、巨大な触角が生えたモンスター。広間の天井にまで届くかという背丈で、全身が白銀に輝いている。
「鋼鉄製の体、それにあの角。ってことは……ハイパーメタルビートル!」
「ぎゅくろおおおおおおおお!!」
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