第百九十二話 次元穴に吸い込まれた!
エディに近づき腕を掴んで引っ張った。その時だ。
「……え!?」
エディの体が異様に軽くなったかと思い、振り返るとなんとエディが突然消えた。
エディが立っていた場所に、真っ黒い巨大な円が出現した。そしてその周りには、さっきも鍾乳洞の入口で見たアレが出てきた。
「蝶々!? ってことは、これはまさか!?」
その瞬間、俺は思い出した。なんでこんな大事なことを忘れていたんだ。
でも遅かった。俺は成す術もなく、その丸い黒い円の中へ吸い込まれた。
真っ暗な空間で、無重力状態で体が浮いている。この浮揚感、転移魔法にも似ているけど違う。
この黒い穴の正体は〈次元穴〉だ。〈次元穴〉が出現する際には、その周辺の地域に黒い蝶々が飛び交う。だからあの黒い蝶々は別名〈次元蝶〉とも呼ばれている。
〈ロード・オブ・フロンティア〉に登場する、禁断魔法によるトラップだ。あのルウミラでも使うことはできないとされている超高度なトラップ。
確かに鍾乳洞の入り口にも次元蝶は飛んでいた。くそ、もっと早めに思い出していれば。俺はなんて馬鹿だ。
この〈次元穴〉も転移魔法と同じで、亜空間に閉じ込める点では同じだ。でも転移魔法は自動的に目的地に着いて、自動的に亜空間から脱出できたけど、この〈次元穴〉はそうはいかない。
亜空間から脱出するには、自力で出口を見つけるしかない。それが本当に厄介なところ。
ただでさえ真っ暗な空間を無重力の状態で彷徨い続け、どこにあるかわからない出口を見つける。考えただけで絶望しそうだ。
「いや……確か活路はあったはず」
俺はまた前世の知識を振り絞った。このトラップは間違いなく〈次元穴〉、〈次元穴〉も突破口はある。それが何だったか、今こそ思い出さないといけない。
早くそれを見つけて脱出しないと、パメラとノーラも危ない。あの二人までこのトラップに陥ったら最悪だ。
「確か〈次元穴〉は……動いちゃ駄目なはず。この場でじっとする……そして……なんだっけ?」
動かないでじっとする、そこまでは思い出せたけどそこから先が出てこない。
この〈次元穴〉のトラップもそこまで頻繁にあるトラップじゃないからな。
必死に記憶を振り絞っても、なかなか思い出せない。どれくらい時間が経ったかな。音も全くしないから、本当にどうかしそうだ。
「音……? そうか、耳だ!」
やっと思い出した。耳を塞ぐんだ。いや、耳だけじゃない。目と耳を塞ぐ。この状態でしばらく待つ。
カラーン! カラーン!
どこからともなく鐘の音が聞こえた。そしてこの鐘の音が合図となる。俺は目を開けた。
「ビンゴだ! やっぱり……光の道!」
目の前に出現したのはキラキラと光る道。この光る道を辿って行けば、出口に着ける。
無重力だから動きづらいけど、海の中を泳ぐように俺はなんとか移動を始めた。
光る道は一本道だから迷うことはない、それだけが救いだ。しばらく移動すると、光る道が途切れた。
行き止まりか。いや、違う。その先は暗いけど、扉があった。
「やった、出口だ!」
扉に手を触れた瞬間、前へ動き出した。ビューっという風が吹き込むと同時に、日の光が差し込んだ。外に出たんだな。
何とか脱出はできた。一時はどうなるかと思ったけど、あとは鍾乳洞に戻って急いでパメラとノーラと合流しないと。
「脱出おめでとう、ロバート君」
「……え? 誰だ!?」
外に出ようとした瞬間、背後から女の声が聞こえて振り向いた。目の前になんと髪の長い女の子が浮かんでいた。それも仮面を被っている。
「無限階段だけじゃなく、この〈次元穴〉から脱出できる方法も知っているだなんて、さすがね。でも……」
後ろからバタンという音がした。なんと開けた扉がまた閉じた。押してみたがビクともしない。
「悪いけど、まだ脱出させるわけにはいかないわ。あなたがいない方が、ショーが盛り上がるから」
「一体何をするつもりだ!? そもそもお前は誰なんだ!?」
「ふふ……この声聞いても思い出せない?」
「……え!?」
少女の声を聞いて俺はハッとした。仮面を被っているけど、声は確かに聞き覚えがあった。
この声からして連想できたのは、一人だけだ。
信じがたかったけど、少女はゆっくりと仮面を外してその素顔を晒した。
「そんな……どうして君が!?」
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