第百八十六話 〈スネークロープ〉が切れた!?
エイダは頷いた。
「ルウミラの魔力が異常に増幅したのは、ロバートの仕業。彼が来たら、ルウミラにしたのと同じことを私にもしてもらいます。そうすれば私の魔力も……」
「しかし……そう都合よくいくのか? それに彼が今どこにいるのかもわからないんだぞ」
「それは私の〈サーチ〉で……」
「おい、それ以上魔法を使うな。お前の体が……!」
「平気です。〈サーチ〉ならそこまで魔力は使いません」
エイダは座った状態のまま杖の先端を壁に向け〈サーチ〉を唱えた。
円形の地図が壁に出現するも、どこにも赤い点が見当たらない。
「駄目だ。まだ彼はここには」
「おいおい、随分苦しんでいるみたいだな。お二人さん」
突然聞き慣れない男の声が聞こえた。ぱっと振り向いたエイダとジョニーの前に、町の警備兵らしき男が二人ほど立っていた。
男達がにやにやしながら二人を見つめる。エイダとジョニーも最悪な状況だと察した。
「し、しまった……」
「おやおや、ランクAの魔道士のエイダ・ハルスウェア。それにギルドマスターのジョニー・テープさんのお二人じゃねえか」
「……何の用よ? あなた達」
エイダは敢えて強気な姿勢で質問する。だけど男達は全く動じず、二人に近づいた。
「何の用もくそもねぇよ。お二人さんは重要指名手配犯になっていてね、見つけ次第即捕えよと命令が出されている」
「随分迷惑な話だな。その命令を出しているのは、一体どこのどいつだ?」
「知る必要はない。とにかくおとなしく命令に従うんだな、痛い目に遭いたくないだろ?」
「あら、それはこっちのセリフよ。私はともかく、ジョニーさんを相手にするわけ?」
エイダはまた強気な口調で聞いた。男達は動じるどころか、逆に笑い出した。
「ふはは! 笑わせてくれるぜ! お前達二人が身動きできないってことは、とっくにバレてんだよ!」
「そ、そんなことは……」
「おいおい、まだ強気でいるのか? だったらかかって来いよ、遠慮なく!」
男達は両手を広げながら挑発した。しかしエイダとジョニーも沈黙したまま動かない。
「ふふ、その様子じゃどうやら本当に成す術ないようだな」
「それじゃ、お遊びはここまでだ」
男の一人が鞄の中に手を伸ばし、球体を取り出した。二人とも見覚えのある球体だ。
「それは……〈シーリングボール〉か!?」
「ご存じとはな。まぁ知っていても、どうすることもできないがね」
「まさか、その中に入っているモンスターって……」
エイダは嫌な予感がした。
「察しのいい女だ。安心しろ、死にはしないからよ」
「まぁ、体中ドロドロになって臭いがきつくなるだけだ。下手に抵抗しない方がいいぜ。怒らせたらヤバいからよ」
「く……あなた達、なんて悪趣味なの!」
「それは……アメリア様に言えよ!」
男が〈シーリングボール〉を放り投げた。すぐさま眩い光が解き放たれ、エイダとジョニーは目を閉じる。
「ぎりえええええええええ!!」
「やっぱりこいつ!」
「アースウォーム、二人をしっかり飲み込めよ!」
エイダの予想通り〈シーリングボール〉から出てきたのは、長い胴体を持ったアースウォームだ。
巨大な口は二人を簡単に飲み込めるほど、大きく広がる。
同時に鼻がねじ曲がりそうな悪臭が漂い、エイダは思わず顔をしかめた。
「こんな奴に飲み込まれるなんて……ロバートおおおおお!!」
ロバートが近くにいないことを知ってはいるが、彼の名前を叫ばずにはいられなかった。
だけど意外なことに、すぐに彼女の前に救世主が現れる。
「え!? 嘘……」
「なんだと!?」
「ぎばああああああ!!」
アースウォームがそのまま地面に寝そべった。顔の側面から血を噴き出しもがいている。その血を噴き出させた男が剣を持ってエイダの前に立った。
「ジョニーさん!? どうして……」
「エイダ! お前も魔法が解けているはずだ」
「あ! 手が……動く!」
「くそ! どうして今になって切れるんだよ!?」
「あの女……騙しやがったな」
「残念だったな、お前ら。これで対等に戦える」
ジョニーがエイダに魔力回復薬を手渡した。エイダは即座に飲み干し、立ち上がって杖を構えた。
「奴は俺が引き付ける。エイダはあの二人を頼む」
「でも一人で大丈夫ですか?」
不安そうに聞くエイダにジョニーはすぐに微笑みを返した。
「奴とは何度も戦ったことがある。それにコルネ村に出てきたやつよりかは弱そうだ」
「そうですか……わかりました!」
「くそ……どうする?」
「どうするもこうするも、あの二人が相手じゃ……」
予想外の状況に二人は狼狽えながらも後退をはじめた。しかしエイダは逃さなかった。
「逃がさないわよ。〈スネークロープ〉!」
「うわぁあ!?」
第百八十六話ご覧いただきありがとうございます。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman