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第百八十話 アメリアの最終兵器

 北の古代遺跡でパメラが憲兵達を一掃した。その様子を、遠くの木の上から眺めていた一人の少女がいた。


 少女は長い黒髪を手でとかしながら立ち上がる。


「やってくれるじゃないあの子達、本当に強いんだから。特にロバート君」


 少女は飛んできた黒い蝶々を指先に止めて言った。


「私のかわいい子供達にも気づくなんてね……やっぱりロバート君の正体は」


 少女の頭の中には、ロバート・ヒューリックとは別の名前が浮かび上がった。


「このままじゃ彼も仲間達もどんどん強くなるわ。早めに報告しておかないとね、アメリアちゃんに……」


 少女は立ち上がり、左手を挙げた。彼女の背中から無数の黒い蝶々が出現させ、さっき木の根元に落下したスネイルの体に密集した。


 スネイルと黒い蝶々の群れは、何かに吸い込まれるかのように消えていった。


「まだ終わりじゃないわよ、トクナガミツアキ。これからもっともっと、面白いショーを見せてやるんだから」


 彼女はサンダルを放り投げ姿を消した。



 ソーニャの町の南東の山奥にある別荘、そのテラスにてアメリアは黒曜水を飲みながらくつろいでいた。


 彼女はこれからのことを考えていた。自分が強化を施した二人の男の戦士さえいれば、この島の支配など容易い。


 でもその必要もなくなりそうだ。なぜなら、最大の邪魔者たちがいなくなったから。


 彼女のもとに今朝朗報が届いた。なんとランクAの弓使いパメラを捕獲したと、憲兵に化けたスネイルから報告があった。


 スネイルは彼女が帝国から呼び寄せた最強の剣士、彼女に代わってソーニャの町の支配を執行していたが、早くも彼は仕事をしてくれた。


「ジョニーとエイダは例の小島に移動、パメラも捕獲……パメラの実力じゃスネイルには勝てない」


 何もかもアメリアの思惑通りに動いていた。椅子にくつろぎ、心地よいそよ風と日光を浴び、黒曜水を飲む。


 万が一のためにと思って育成した最強の戦士の出番もなくなりそうだ。


「あと少しで、この島は私のもの……」


 もう少しでアメリアの悲願が達成される。でもなぜか、心は穏やかにならない。


 気がかりなのはロバート・ヒューリックだ。最大の障壁になるであろう少年も、最果ての島へ送り込んだ。念には念を押して、魔道船の触媒も事前に抜いた。これでロバートはもうあの島から出られない。


 計画は完ぺきなはず。だけどあまりに順調に行き過ぎている、何かを見落としていないだろうか。アメリアにもわからない。


「ロバート・ヒューリック。あいつは異常よ、不可能を可能にしてしまいかねない。もしこの島に戻ってくるなら……ん?」


 その時、アメリアは何かを見つけた。上空を何やら羽を生やした黒い物体が飛んでいた。


 最初は鳥のように見えたが、よく見たら違う。羽を広げ飛んでいたその姿は、鳥ではなく別のモンスターに見えた。


「ドラゴンバタフライ? いや、それにしては小さすぎる」


 黒い物体はふわふわとゆっくりと下降していく。アメリアは嫌でも目で追った。テラスの手すりまで寄って、その小動物が降り立った場所を見下ろす。


 そして目を疑った。


「スネイル!?」


 間違いなかった。憲兵に化けていたスネイルが倒れていた。しかも体中ボロボロに負傷している。


 一体なぜこんな場所にスネイルが。いや、それよりも彼の身に何があったのか。


 アメリアの心に恐怖心が渦巻いてきた。自分の心中を察するかのように、最悪な事態が起きてしまった。


「まさか……あいつが!?」

「アメリア様ーー-!!」


 今度は遠くから叫び声が聞こえてきた。ホルスが全速力でテラスまで飛び込んできた。


「あ、アメリア様……その……信じられないことが起きてしまって……」


 ホルスの様子からしてアメリアも嫌な予感はしていたが、その内容は的中していた。


「エイダとジョニーが戻ってきたですって!?」

「はい。その……『ソーニャの町』に潜伏していた部下達から目撃報告がありました。しかも彼らと行動をともにしていたのは……」


 ホルスの口から飛び出した女性の名前を聞いて、アメリアはついに確信した。


「ロバート・ヒューリック……やっぱり戻ってきたのね」

「で、でも……ロバートもルウミラ様も最果ての島へ飛ばされたはずです! あの島からこんな短時間で戻ってくるなんて」

「信じられないでしょうけど、それは事実よ。あれを見て」

「あれ……?」


 アメリアが指差した先をホルスが見下ろした。


「あれは帝国から派遣してきた剣士のスネイルじゃ!? なんでボロボロなんですか!?」


 アメリアが魔法を唱え、スネイルをテラスまで引き寄せた。そして回復魔法を唱え、スネイルの体を治療した。


 だがそれでもスネイルの傷は完全に癒えなかった。アメリアも平静が保てなくなった。


「こんな傷を負わせられるのはロバートだけよ。やっぱりあの少年、ただ者じゃなかった」

「ど、どうするんですか? このままじゃ……」


 怯えるホルスをしり目に、アメリアは意を決して別荘内に入った。ホルスも彼女に続いた。


「あの二人を使う。もう出し惜しみはできないわ」

「でも……調整は完全なんですか?」

「今はそんなこと気にしていられないわ」


 アメリアは足早に地下の研究所に向かった。並んで眠っていた二人の少年の前に立つ。


「おぉ、アメリアか。何しに来た?」


 研究室の端の椅子でくつろいでいたウィスベリーが何事かと近づいた。


「この二人の出番が来たわ。早くピアスをつけて」

「もう戦わせる気か!? 一度もテストしてないんだぞ」

「ロバートが戻って来たの」

「……なに?」


 アメリアの言葉がにわかには信じがたかった。


「まさか、ロバート・ヒューリックが戻って来たと? 最果ての島から?」

「そうよ。だからこの二人が必要なのよ、早くピアスをつけて」

「気は確かか? ロバート・ヒューリックの強さは、お前が一番よく知ってるだろ!」

「だからなのよ。ロバートにはこの二人をぶつけるしかない、もう一度ステータスを見なさい」


 ウィスベリーは少年が寝ていた寝台の脇に備えられた長方形の板を目にした。


 そこには0がいくつも並んだ膨大な桁数のステータスが表示されている。


「未だに信じられんな、この巨大なステータス。このエディとかいうガキも恐ろしい」

「ロバート・ヒューリック、見てなさい。覚醒したエディの恐ろしさを思い知らせてやるわ、ふふ……」

第百八十話ご覧いただきありがとうございます。


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