第百六十三話 時計台に仕掛けられた罠
アメリアがこの町に居座っているって、ちょっと信じがたいな。でも居場所について全く心当たりがない以上、ここは兵士に従った方がよさそうだ。
仕方なく俺もその兵士の後を追った。
町に入りしばらくして、俺は異変に近づいた。
「おいおい、静かすぎじゃないか?」
「そりゃそうさ。今島の至る所に凶悪なモンスターが出てるんだ、外出は自粛中なんだよ」
兵士の言う通りかもしれないけど、いくら身の安全を守るためとはいえ、ここまで静かになるものだろうか。
すると右前方の民家の家の窓から、女性の顔が見えた。その女性の髪の色を見て、俺はハッとなった。
「今のは!?」
「どうしたんだ?」
「いや……なんでもない」
人違いだった。髪は金髪だったけど、顔は全然似ていない。というかまだ子供だ。
金髪の女性だから、一瞬パメラかと思い反応してしまった。そういえば、アメリアも大事だけど、その前にパメラを探した方がいいんじゃないか。
「あのさ……アメリアを探すのは後回しでいいよ」
「え? おいおい、何言い出すんだ!?」
「その前に仲間を探さないといけない。パメラ・シュナイダーって言って、弓を持った金髪の女性だ。知らないか?」
「パメラ……あぁ、あのAランク冒険者の」
「知っているのか?」
兵士は複雑な表情を浮かべる。しばらく考え込んでいる。やっぱり心当たりがあるのか。
「……いや、すまねぇ。見てねぇな」
なんだよ。一瞬期待していたんだが。
「そうか……まだコルネ村から戻ってないのか」
「仲間を探すのか、それともアメリアのところに行きたいのか、どっちにするんだ?」
「……わかったよ。案内を続けてくれ」
パメラの居場所がわからない以上、今はとにかくアメリアを優先だ。俺のステータスの高さなら、アメリアだって楽勝だ。
注意すべきは転移魔法陣くらいかな。あの罠の可能性がある以上、迂闊に近づけない。
といっても、この町の中で転移魔法陣があるような場所はない。となればチャンスだ。今度こそアメリアを倒せる。
そう思いながら、しばらく兵士のあとに続いて歩いていると、見覚えのある塔の前で来た。兵士はそこで止まった。
「ここは、時計台か?」
「アメリアがこの塔の中に入っているのを見た。しかも裏口の扉から。それからずっと見張っているが、まだ外に出てきていない」
なんてことだ。ある意味すごく目立つ場所じゃないか、なんだってこんな塔の中に入る。
俺の記憶が正しければ、この塔の中に転移魔法陣なんかない。いや、そもそも〈シェアリングピアス〉を取った以上、もうこの塔には意味なんかない。
「そうか! アメリアめ……」
「なんだよ、急に大声なんか出して……」
「あ、ごめん。気にしないで」
恐らくアメリアは〈シェアリングピアス〉のことに調べたんだ。そして俺がこの塔で入手したことを知って、自分でも虱潰しに調べようとしているのかもしれない。
そんなことしても意味ないんだがな。だけど好都合だ。この塔の中なら、アメリアは間違いなく袋のネズミ。
「案内ありがとう、これはチップだ。受け取ってくれ!」
「へへ、気が利くじゃないか。じゃあ、俺はこれで。健闘を祈るぜ」
よし、中に入るか。俺は入り口の反対側の壁に回り込んだ。
この反対側の壁にある隠し扉、確かに誰かが開けた形跡がある。アメリアだな。
扉を開けて中に入った。中は薄暗い。前回来た時と同じ、あまり変わっていないな。
モンスターもいたけど、もう出てこないだろう。俺は急いで階段を上った。
「ん? 今のは?」
一瞬だけ、上から光が漏れているのを見た。恐らく最上階だ。誰かがいるに違いない。俺は歩を速めた。
また光った。やはり最上階からだ。モンスターも出てこない。
「あ……上る必要なかった」
うっかりしてた。よく考えたら、俺は跳躍のステータスを上げ過ぎているから、馬鹿正直に階段を上る必要ないんだ。
「ジャンプで一気に最上階だ!」
跳躍して最上階に到着、さて物色しようかな。
さっき見えた光はどこから漏れているんだ。と思ったら、隅っこの床で何かが光っている。そっと近づいて、それを手に取った。
「光る球か、さっき見えた光はこれだな。でも……妙だ」
位置的にこんな隅っこにあったら、下から見えない。明らかに誰かがここに移動させたんだ。
誰かがいる。光る球のおかげで、周囲はよく見える。でもどこだ。最上階には特に隠れられそうな場所なんてないぞ。
「アメリア、隠れてないで出てこい!」
念のため声を掛けて見た。やっぱり返事はない。
隠し扉から入った最上階は建物の裏側にあたるから、窓なんてない。
もしかしたら、もういないのかも。あの兵士はアメリアが塔から出たとは言っていない。でもアメリアのことだ。
何らかの魔法を使って、この塔から脱出したのかもしれない。それがなんなのかはよくわからないけど。
とにかくここにはいそうにない。俺は階段へ向かった。
ゴトッ!
しまった。うっかり球を落としてしまった。ゴロゴロと球が転がる音が聞こえた。
「あれ!? どこいった!?」
拾おうとした瞬間、なんと球が消えた。いや、消えたんじゃない。
よく見たら小さな穴が開いていた。ちょうど球が入るくらいの大きさだ。
なんでこんな場所に穴が開いている。と思った次の瞬間、体が凄く軽くなった。
「うわぁああ!?」
気づいたら俺は真っ暗闇の中を一直線に落下していた。上を見上げたら、大きな正方形の穴が開いていた。
なんてことだ。まさかこんな場所に落とし穴の仕掛けがあったなんて。
油断した。今更ながら俺は気づいた。
閑散とし過ぎていた町並み、妙に動揺する警備兵、そしてアメリアの居場所まで俺を案内しようとしたこと。
全てを合理よく考えたら、たどり着く結論はこうだ。
「あの兵士……アメリアの手先かよ!」
そう考えれば納得だ。全ては俺をはめるための罠だ。
俺がこの島からいなくなって約三日、その間にこの町はアメリアの息のかかった連中に支配されてしまったんだ。
船でルウミラが言っていたアメリアの計画通りになっている。
このままじゃ俺の実家も危ない。
「地面か!?」
落下し始めて十秒くらい経ってようやく地面が見えた。かなり深い穴だ。
着地して、あたりを見回した。時計台の最上階に落とし穴なんてないはず、ここから先は俺の知らない空間だ。
暗くてよく見えないが、どうやら人口の建築物の内部だ。かなり広大な直方体の空間になっている。天井まで高さ五十メートルくらいあるんじゃないか。
「ふふ、やっぱりこの高さから落ちても平気なのかよ」
「誰だ!?」
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