第百六十二話 アメリアの居場所が判明!?
宿舎に入っていった男は愕然とした。ロバート・ヒューリックは確かに眠り薬が大量に入った水を飲んだ。
にもかかわらず、全く眠る気配がない。どうなっている。
たまりかねて男はそのまま奥の部屋に一直線で向かい、ドアをこじ開けた。
中の部屋でくつろいで紅茶を飲んでいた男が、思わず床にこぼしてしまった。
「おい! ノックもせず開けるな!」
「す、すまねぇ! でも大変なんだ、あの男が帰って来た!」
「誰が帰って来たって!?」
「だからあいつだよ! ロバート・ヒューリックだ!」
「なに!? ロバート……!?」
部屋の中にいた男達は、口を開けたまま固まった。今の報告の内容は彼らには信じられなかった。
「……間違いないのか!?」
「間違いねぇ! 今も門の入口の所に立っている。廊下の窓から見てみろ!」
部屋の男達もそう言われて、部屋を飛び出し廊下の窓から外を見た。全員目を丸くした。
「あれは……嘘だろ!?」
「本当にロバート・ヒューリック……どういうことだ!? あのガキはアメリア様が最果ての島へ送り込んだはずだ」
「ここから何千キロも離れている。たった二日で戻るなんて不可能だ。いや、そもそもあの島には移動手段がないはず」
「いや、一つだけあるぞ。魔道船だ。それなら海上を超高速で移動できる」
「馬鹿な! アメリア様は動くはずはないと言っていたぞ!」
「そうは言われても、ほかに可能性はないぞ」
「大変だぁ!」
今度は別の男が宿舎に入って来た。さっきの男と同じく慌てている。
「今度はなんだ?」
「東の大灯台近くの浜辺で大型の船が停まっている!」
「船だと!? どんな船だ!?」
男がその船の外見と特徴を簡単に話した。
「……なんてことだ。魔道船と一致している」
「でも情報じゃ、あのガキは魔法が使えない。仮に船を修理したって、魔道船を動かせないんじゃ」
「忘れたのか? あの島にはルウミラも転移されたんだぞ」
「ルウミラって、例の帝国の魔道士だな。確かアメリア様お気に入りの部下……」
「それじゃ、ルウミラが裏切ったってことかよ!?」
「それ以外に考えられん。ともかく一大事だ! あのロバート・ヒューリックが生きてこの島に帰って来た。ってことは……」
「すぐにアメリア様に報告だ」
仲間の一人が廊下を走り出そうとした。しかしすぐにリーダーの男が、その男の肩を掴んだ。
「ちょっと待て! 報告はするな!」
「何言ってんだ? まさかこのまま町に入れるのか?」
「いいか、よく考えろ。ロバート・ヒューリックが生きてこの島に帰って来た。これは……ある意味チャンスだ」
「チャンスって、どういうことだ?」
リーダーの男は笑みを浮かべた。
「ロバートはアメリア様にとって最も邪魔な存在。そのロバートを、俺達が仕留めれば……」
周りの男達もそれを聞いて頬が緩みはじめた。
「出世は間違いなしだ!」
「そうだ。こんな町の警備隊から卒業だ、アメリア様直属の親衛隊になれるぞ!」
「だけどどうやって始末する? 噂じゃあのガキ、相当強いらしいぞ」
「さっきも眠り薬が入った水を飲んだが、まるで効いてない。どうする?」
リーダーの男は廊下の窓から再びロバートを見た。
「……俺に考えがある。あの場所へ誘導だ、そして……」
リーダーの男がそのまま廊下の奥へ進んだ。宿舎の倉庫のドアを開け、縄で縛られ地面に寝転んでいる女性を見下ろした。
「今朝捕まえたばかりのこの女が役に立つな」
*
「おいおい、まだ待たせるつもりなのか!? いつ終わるんだよ?」
「すまんが俺にも詳しいことはわからん。とにかく待ってくれ」
宿舎に警備兵が入って三十分は経った。
さすがにこれ以上待ちたくない。俺の高いステータスなら、こんな警備兵倒すのはわけない。でもこの町の警備兵だから、悪い奴じゃないっぽいし、何より騒ぎを大きくしたくない。
ガタッ!
宿舎のドアが開いた。さっき入った兵士が出てきた。
「待たせたな。ようやく終わったよ」
「遅いよ。何を確かめたら、そんなに時間がかかるんだ!?」
「話せば長くなる。まずお前がロバート・ヒューリック本人だとは裏付けが出来た。そしてもう一つ大事な知らせがあってな」
「大事な知らせ?」
兵士は神妙な顔つきになって、口元に手を当てた。
「……アメリア・フォン・ローザンヌの居場所を知ってる」
「え? 今なんて!?」
耳を疑うような発言だ。さすがにもう一度聞き直す必要がある。
「だから、アメリア・フォン・ローザンヌだ。キシア帝国の公爵令嬢、あいつを探しているんだろ?」
「そ、そうだけど……一体なんであんたがそんなことを!?」
「実はな、ギルドマスターから聞いたんだよ。今この島で起きている〈スタンピード〉の元締めだってな」
「そうなのか、ジョニーさんが。じゃあ、居場所はどこなんだ?」
「ついて来てくれ。案内してやるから」
兵士はそう言いながら、町の中へ入って行った。
「おいおい、まさかこの町のどこかにいるってこと!?」
「そういうことさ。いいからついて来てくれ」
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