第十六話 パメラからのプレゼント
突然馬車が止まった。どうしたんだ。
「お待ちどうさま、皆さん! 着きましたよ!」
「へ? 着いたって?」
「ソーニャの町よ。そこまで時間かからなかったわね」
窓から外を見た。日はすっかり沈み夜になっていたが、異様に明るかった。それもそのはず。馬車はいつの間にかソーニャの町の中に入り、あちこちに灯された篝火で照らされていた。
夜になっていたこともあり、人通りも少なかった。パメラは持っていた〈鑑定石〉をバッグの中に戻して、大きなあくびをした。
「ごめんなさいね、話の途中で。また明日ゆっくり話しましょう、今日はもう疲れたわ」
「あぁ、そうだね。じゃあ宿にでも……」
「言っておくけど、部屋は別々だからね」
パメラに念押しされた。やっぱりこの世界でも貞操観念はしっかりしているな。まぁ期待はしていなかったが。
俺はパメラに続いて馬車を降りた。するとディエゴが突然呼び止めた。
「ちょっと、ロバートさん! まだあなたには仕事が残っているじゃないですか!」
「え、なんのこと?」
「やだなぁ、今日あなたが狩った魔物のことですよ。ギルドに行くんでしょ?」
「あぁ、そうだった!」
すっかり忘れるところだった。〈ロード・オブ・フロンティア〉では魔物を倒して得られた様々な素材を、町のギルドに行って高値で取引できる。狩猟系のゲームではよくあるシステムだが、この世界で手っ取り早く資金を稼ぐならこの方法しかない。
「へへ、本来ならあっしがもっといい値で直接取引してやりたいんですがね。ギルドにバレたら罰金どころじゃ済まないんで、勘弁してください」
「わかってるよ。それより町まで案内してくれて、ありがとう!」
俺は馬車を降りて町の中心部へ歩き出した。だが突然ディエゴが俺を止める。
「ロバートさん、ここの町は初めてじゃないんですか? ギルドまで私が付き添いますよ」
「いや、大丈夫だよ。何度も行ったことあるから、三日月模様の旗が目印だよね」
ディエゴの表情が変わった。
「こりゃ驚いた。ロバートさんはここに来たことあるんですか?」
「何言ってんだい。だってこの町は……」
そこまで言いかけて俺も気付いた。
「あ、ごめん。そうじゃなくて……なんというかほらこの島ってヒューリック家が治めているから、そりゃこの町のギルドにも何度か寄ったことがあるよ」
「そうだったんですか。こいつは失礼しました」
危なかった。間違っても「前世で何度も寄った」なんて言えるもんじゃない。まだまだこの世界をゲームの中の世界だと思っているな。
あくまで〈ロード・オブ・フロンティア〉にそっくりな異世界というだけで、ゲームの中の世界ではない。VRゴーグルをつけて遊んでいるんじゃない。目の前で動いている人や動物は本物なんだ、それを忘れるな。
俺はディエゴと別れて早速ギルドへ向った。道中にあった屋台や商店から、思わずよだれが出そうなほどの料理の臭いが漂った。
そういえば今朝家を出てから、何も食べてなかったっけ。思わず空腹の音が鳴った。
「さすがに腹が減ったな。よし、ギルドに行く前に何か食べよう」
商店の一つに寄ろうと思ったその時だった。
「これ食べて」
突然俺の背後から女性の声が聞こえた。
「ぱ、パメラ? なんでここに?」
「私もギルドに寄るのよ、悪い? それよりお腹空いてるんでしょ、これ私のおごり」
パメラが串に刺さった肉団子を俺に差し出した。これは予想外な展開だ。
「あ、ありがとう!」
「助けてもらったお礼よ、これで貸し借りなしで」
「あぁ、わかってるよ」
「熱いから気を付けてね」
まさかパメラにおごってもらうだなんて、こんなに嬉しいことはない。早速口に入れると、アツアツで思わず口から出してしまいそうだったが、パメラがいる前でそんな格好悪いところは見せられない。
何とか我慢して飲み込んだ。滅茶苦茶うまい。現実世界の肉団子と同じ食感と味だが、美女から奢ってもらっただけに余計に美味しく感じる。
前世ではこんな経験はない。しいて言うなら、バレンタインデーの日に女子社員からもらった義理チョコくらいだったな。だが肉団子を平らげる前にパメラが離れていった。
「私は先にギルドに行ってるから、それじゃ。場所はわかるのよね?」
「あぁ、大丈夫。それより肉団子ありがとう!」
「お礼は一度だけでいいわよ」
パメラがギルドへ向かった。まさかパメラまでギルドに行くとは予想外だ。彼女も何か戦利品があるのだろうか。
まぁそんなことより、今は肉団子だ。刺さっていた肉団子は四つ、残りは三つだ。一体何の動物の肉だろうか、まぁ美味しければなんでもいいや。
腹が減っていたからすぐに平らげそうだった。だが残り一つの肉団子を口に入れようとしたその時だ。
「おい、そこのお前!」
突然背後から男の声が聞こえた。一瞬誰かが俺を呼んだのかと思ったが、多分別人だろうと思い振り向かなかった。
「おい、無視すんなよ!」
なんだ。まさか俺のことか。そう思い、渋々後ろを振り向いた。
なんと振り向いた先にガラの悪そうな男性が五人、俺をじろじろ見ながら立っていた。身なりからして貴族ではないのは確かだ。
「兄貴! こいつの顔は……」
「な? 俺の予想当たってたろ!」
「さすが兄貴ですぜ、確かに間違いねぇ!」
「なんだよ、何か用か?」
中央にいたリーダーっぽい肩までたらした長い金髪の男がさっきの声の主か。そして周りの四人はこいつの腰ぎんちゃくってところか。
金髪の男が俺にやや前に出た。年齢は俺よりやや上か。
「ロバート・ヒューリック、まさかこんな場所で会うだなんてよう」
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