第百五十七話 無人島に飛ばされた!?
今回は区切りが中途半端になるので、若干長めになります。
ドラゴンの頭から降りた俺はレミーの前に健全な姿をアピールした。
「レミー、もう倒したから安心しろ」
でもレミーは口をあんぐり開けたまま固まっている。
「……あ、あの……一体なにが?」
「説明してあげて」
「あぁ、わかったよ」
あまりに一瞬の出来事だったから、さすがに意味不明すぎたかな。しょうがない説明してやるか。
「えぇと、まず俺のステータス値だけど、攻撃と素早さが200億あるんだ」
「……え?」
「200億もあれば、あのドラゴンだって剣を使わずに倒せるんだ。因みに使ったのは指一本だけどね」
「もしかして、デコピン?」
「そうデコピンさ。こんな風に指を弾いて当てただけ」
「…………」
レミーは何も言い返さずただ聞いている。
「さらに、素早さが200億もあるから、ドラゴンの頭の上まで一瞬で移動できる。動きが速すぎて見えなかったろ?」
「ということらしいわ。でも……理解できてないみたいね?」
「……はい」
ルウミラがフォローしてもやっぱり駄目か。前世でも俺は全く同じやり方でドラゴンを撃破した、確かに周りのプレイヤーからは頭おかしいと言われたっけ。
「だから、ステータス総合値が900億あってね。そしてコスモソードの特性でさらに二倍もあって……」
「ふざけないでください! どこの世界にステータス900億の戦士がいるんですか!?」
「いるんだよ。なんなら〈鑑定石〉使ったら?」
「……はぁ、全く。もうその話はいいです!」
さすがのレミーもうんざりしたみたいだ。
「そんなことより私はあなたをずっと探していたんですよ! 今島が大変な状況なのは知っていますよね!? 一体どこにいたんですか?」
「一度に複数質問しないでくれ。失踪したのはすまなかった、いろいろあってね」
俺はルウミラの方を見た。
「って、あぁ!? あなたは!?」
「そういえば説明してなかったな。魔道士のルウミラだ。俺の新しい仲間さ」
「な、仲間……ですって!? どういうことですか!?」
「まぁ、本当にいろいろあってね。今は仲間になったんだよ」
ルウミラは渋々頷いた。でもレミーは警戒心を隠せていない。大灯台で戦ったことについてはレミーも知っているからな。
「……本当に信用できるんですか?」
「あなたなんかに言われたくないわ」
「なんですって!?」
「おいおい、喧嘩はやめてくれよ。ルウミラも変なこと言うのやめてくれないか」
「……ごめんなさい」
「それよりさ、レミー。俺の方こそ聞きたいんだ。今島はどんな状況なのか、あとエイダとパメラがどこにいるんだ?」
「ちょっと待って!」
突然ルウミラが周りを警戒しだした。茂みがざわついている。
「モンスターね」
「ぐがあああああああ!!」
現れたのは数体の五つ星相当のモンスターどもだ。まずはこいつらを退治しよう。話はそれからだ。
*
「一体どこなのよ……ここは?」
エイダはただ呆然とするしかなかった。アメリアが潜伏していたとされる小屋から転移した先は、予想とはまるで違った場所だ。
そこは水平線まで果てしなく海が続く絶海の孤島、しかも誰もいない。完全な無人島だ。
アメリアは影も形もない。そして肝心の転移魔法陣はもう発動しない。
一番近い陸地までどの程度離れているかわからない。
「やっぱり誰もいない」
「そんな……」
ジョニーも一緒に転移していた。彼が周囲を散策し終え戻って来た。
「してやられたな。アメリアに……くそ!」
「ごめんなさい。私のせいです」
「おい、何言い出すんだ?」
「本来魔法陣は青色に光るの。でもさっきのは……紫色だった」
「ということは……」
紫色の魔法陣はエイダも見たことない。あれはアメリアが何らかの細工を施した魔法陣に違いない。
「私が……私がもっと早く気づいていれば!」
「エイダ!」
ジョニーがエイダの隣に駆け寄る。
「お前のせいじゃない。俺も気があせっていた」
「ジョニーさん」
「それよりここから脱出することを考えるぞ。なんとしても、さっきの島へ戻るんだ」
ジョニーは諦めていないが、エイダは絶望するしかなかった。
「でも、転移魔法陣はもう使えません」
エイダがは、ドーム状の建物の入口の前に立っていた。唯一島にある人口の建築物で、中には転移魔法陣の床があるだけ。
「転移封じか。用意周到だな」
エイダもすでに転移魔法を唱えていたが、何の反応もなかった。
転移魔法以外の方法で脱出するしかない。二人とも頭を抱えた。
「一番近い陸地までどの程度離れているか、それが気になるが……」
移動できる手段は一つしかない。エイダが持っている〈フローティング・ボード〉だ。
これでどこまで行けるか、エイダは考えた。
自分の今の最大魔力量的に考えて、恐らく最大で50km、魔力回復薬を使えばあと50kmは延長できるはず。
「最大でも100km程度です。でも100km移動しても、陸地がある保証なんて……」
「シッ!」
突然ジョニーが口の前に指を立てた。
「どうしたんですか?」
「……誰かいる」
「え!?」
エイダも周囲を見回した。
「……誰もいないようですけど」
「いや、確かに声は聞こえた。もう一度浜辺に行ってくる」
「あぁ、ジョニーさん!」
ジョニーが浜辺に向かった。たまらずエイダも彼のあとを追う。
しばらく歩いても誰もいない。しかし浜辺に着いて異変に気付いた。
「そんな……あれは!?」
「おい、大丈夫か!?」
浜辺には一人の金髪の男が気絶して、まるで魚が打ち上げられたかのように倒れていた。
ジョニーが男の横に立った。そして心臓と呼吸を確かめる。
「かろうじてまだ生きているな」
「よかった……」
「うぅ……あぁ……」
かすかに声を発した。エイダは男の体を眺め、顔をゆがめる。
「それにしてもひどい傷。一体何と戦ったのよ……」
「さぁな。いずれにせよ、これじゃ俺の回復薬でも厳しいな」
「私も治癒魔法は使えません。どうしましょうか」
「とにかく運ぼう。もしかしたら、俺達と同じくこの島に転移された奴かもしれんからな」
ジョニーが運ぼうと両手で体を起こしたその時だ。
「……ミラ」
「え?」
「うなされているな。気にするな」
「いえ、今のは……」
エイダは一瞬だが聞き覚えのある名前だと思った。
「……ルウミラ……」
「なに!? 今……」
「ルウミラと言ったわ!」
「泳ぎ……疲れました……」
「ちょっといいですか!?」
ルウミラが杖の先端を男の体に向けた。
「何をする気だ?」
「確かめたいことがあるんです。〈アプレイザル〉!」
杖の先端からいくつもの小さい円形の魔法陣が飛び出し、男を球状に取り囲んだ。
エイダは固唾を飲んで見続ける。そして魔法陣が消えた。
「何かわかったか?」
「……やっぱり間違いない」
エイダが鑑定の結果を簡単に述べた。
「……マリオネットだと!?」
「はい。ルウミラの禁断魔法です。特殊な杖で発動されたんですけど、それにかかるとマリオネット状態になって、ルウミラの意のままに操れるんです」
ジョニーはしばらく言葉が出なかった。
「……ルウミラ……様」
「多分海に入るよう命令されたんだと思います。でも信じられない、まだ呪いが解けてないなんて」
「考えても仕方ない。とにかくこの男を助けるぞ。マリオネットにかかろうがなんだろうが、人手は多い方が……」
ジョニーが話しかけてもエイダは空を見上げたまま、口を開けていた。
「……どうした?」
「あれを……」
エイダが空を指差した。ジョニーも見上げると、一瞬目を疑った。
「なんだあれは!?」
空高くに何かが浮かんでいた。光る球体、羽を生やしまるで鳥のように飛んでいた。徐々に近づいて来る。
「〈リモート・スカウター〉です。高位の魔法で、遠方を探索できるようになります」
「なんだ、驚かせるなよ」
「……違いますよ、ジョニーさん」
「違うってなにが?」
「私、〈リモート・スカウター〉使えません」
「!?」
ジョニーは再び空を見上げた。あの魔法を発動したのは一体誰だ。
考えられるのは一人だけだ。
「アメリアめ……監視しているのか」
「……あるいは、ルウミラかも」
「どっちでもいい。二人とも敵だ。あれがある以上、脱出は不可能か……」
ジョニーは金髪の男を持ち上げ、島の中央部へ引き返した。実はロバート・ヒューリックが球体から二人の姿を目撃したことなど、知る由もなく。
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